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Special

映画「ブロードウェイ♪ブロードウェイ~コーラスラインにかける夢」

ブロードウェイミュージカル「コーラスライン」のオーディションを世界初公開!

ブロードウェイのバックステージにスポットライトを当て、ゲイだったり、見た目がイマイチだったり、背が低かったり、それぞれが悩みを抱えながら夢に向かって輝く様を感動的に描いた「コーラスライン」。その熾烈なオーディション風景に、70年代の映像(マイケル・ベネットへのオマージュ)を巧みにフラッシュバックさせながら、リアルで胸を打つ作品への昇華させた奇蹟の感動作。


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 「コーラスライン」は70年代にブロードウェイで大ヒットし、世界を席巻した不朽の名作ミュージカル。若い方も名前は聞いたことがあるでしょう。

 ある晩、舞台演出家のマイケル・ベネットは、キャストたちを集め、録音用のテープを前に、どんな経験をしてこのステージにたどりついたのか、それぞれの人生を語らせます。この告白から「コーラスライン」が誕生するのです。まずマイケル自身が、「ウェストサイドストーリー」のツアー中、共演者の男性に迫られ、自分はゲイじゃないと思い込もうと彼の誘惑を振り切って逃げた(実際はゲイだったこと)というエピソードを告白します。そこからキャストたちは、堰を切ったように、自分の生い立ちや本当のキモチなどを語り始めるのです。
 そうしたひとりひとりのストーリーを元に、いわゆる主役級ではない「コーラスライン」というバックダンサー役をつかもうとオーディションに挑戦する人々の生き様をリアルに描いた傑作が誕生したのです。ゴージャスに作り込まれたフィクションでありファンタジーであったブロードウェイのステージを、その裏にあるキャストたちの苦難や情熱にスポットを当てることで感動を喚び起こした傑作なのです。
 高校時代、僕は映画館でこの最初の「コーラスライン」を観て、生まれて初めて映画にリアルなゲイが登場し、他の人と同じようにスポットライトを浴びていたことにいたく感動しました。そして、長距離バスに乗ってNYをめざしたヴァルのように、僕も田舎を出て都会をめざさなきゃ!と決意を固くしたのでした。(そういう意味では、人生に少なからず影響を与えた映画です)
 ミュージカル映画は数あれど、たぶんアラフォー世代以上のゲイにとって特別な意味を持ってきた作品だと思います。



「コーラスライン」は75年に舞台化されて以来、15年間もブロードウェイで上演されてきました。そして、2006年に16年ぶりの再演が決定し、初日にはライザ・ミネリやサラ・ジェシカ・パーカーらが駆けつけてまだ伝説が続いていることを証明しました。
そんな華やかなステージに上ることを夢見てオーディションにチャレンジする今の若者たちの、まさに「コーラスライン」を地で行くシンデレラ・ストーリー(またはせつない挫折)の一部始終を追った青春群像劇が、この「ブロードウェイ♪ブロードウェイ~コーラスラインにかける夢」です。
 3000人の中から選ばれるのはたった19人。ただダンスや歌が巧いだけではダメ。「コーラスライン」にはキャシー(踊るために生まれてきたような情熱的な女性)やコニー(背が低いことにコンプレックスを持つ中国系の女性)、ヴァル(ダンスは10点だけどルックスは3点。これじゃ受からないと整形をした女性)、ポール(自分がゲイであること、あまりにも女性的であることを悩んでいる)など、個性の強い役どころが多く、そのイメージに合わなければ、その役を自分のものとして演じきれなければ、容赦なく落とされてしまうのです。たとえ一流のダンサーであったとしても。

 そうして、何ヶ月にも及ぶ厳しいオーディションが繰り返され、ふだんからダンスだけを生き甲斐にして、ひたすらダンスをやってきたような人たちが残ってきます。笑顔で軽々と脚を耳元まで上げたり、高々とジャンプしたり、くるくる回って見せたりしますが、そんな離れ業ができるために何十年も血のにじむような努力をしてきた人たちばかりです。
 いったいこの役は誰がつかむんだろう…ハラハラドキドキの連続ですが、突然、映画に異変が起こります。
 オーディションは、ある役を決めるために、ダンス審査があり、歌や演技の審査があり、数名で1つの役を争う最終審査があり…というステップで進んでいきます。
 しかし、ポール(ゲイ)の役だけは全然違いました。
 この人もダメ、この人もダメ、と頭を悩ませる審査員たち(過去にコーラスラインを作ってきた人たち。審査員長はマイケル・ベネットの振付助手をつとめてマイケルとともにトニー賞を受賞したボブ・エイビアン)の前に彗星のように現れたのが、ジェイソン・タム(写真右)という一人の役者。
 彼の演技は、もはやオーディションで演じられる演技を超えていました。観る者の胸を打つ、本物の感情。審査員たちが涙をこらえられなかったのです。「オーディションで泣くなんて…」「僕は30年ぶりに泣いたよ」と審査員長のボブ・エイビアンは言いました。
審査員にとってみれば、何百回も聞かされてきたセリフです。しかも、オーディションという冷静な目でキャストを審査する場面で、心から感情を揺さぶり、涙を流させるなんて…
 そして映画を観る人にとってみれば、あんな前後の脈絡もよくわからない数分程度の語りで涙を流させるってものすごいこと。なのに、観客席のあちこちからすすり泣きが洩れていました。
 おすぎさんもきっとこう言うでしょう。「これは奇蹟です!」
 これだけでも観る価値があります。
 たぶんジェイソン・タムは本当に、ゲイとして、今までいろんなつらい経験をしてきたのでしょうね…。そうじゃなかったら北島マヤもかたなしの天才だと思います。

 もう1人、僕らが拍手を贈りたくなるだろう人物がいます。ただでさえ厳しいオーディションに、高良結香さんという日本人女性(写真右)がチャレンジしたのです。彼女は沖縄出身で、ブロードウェイを夢見て単身アメリカに渡り、苦労を重ねてきたのですが、ネイティブアメリカンではないという理由で落とされかけたり、英語の発音を矯正されたり…もうダメかと何度も思わされます。しかも、コニー役を争うのは、無二の親友…。でも、そんな厳しい試練を、持ち前の明るさや魅力(その裏にあるタフな努力)で見事に乗り越えていくのです。
 アメリカにおけるアジア人の生きづらさはたぶん僕らの想像をはるかに超えるものがありますが(白人のゲイよりシビアなのでは?)、その中で、彼女が(あるいは、もう1人登場する黒人の女性が)キラキラと輝いている姿はとてもステキだし、勇気づけられました。

 「コーラスライン」はゲイや有色人種といったマイノリティに大きくスポットを当てた作品でもあります。が、それだけでなく、どんな人でも一度同じラインに立って、今まで生きてきた中でつかんだものをすべてさらけだし、ブロードウェイのステージに上がるという夢に向かって正々堂々と競い合うというところが、誰もが共感できる魅力なんだと思います。彼らの姿はとりもなおさず、今ここで精一杯生きている自分の姿であり、「コーラスライン」はそんな人生の象徴だからです。

 ちなみに「コーラスライン」の原案を思いつき、演出と振付けを手がけ、「コーラスライン」の大ヒットとトニー賞という栄誉を戴いたマイケル・ベネットは、その後、「ドリームガールズ」を手がけたり、活躍を続けましたが、87年にエイズで亡くなっています。
 今回の映画では、往時のマイケル・ベネットの映像も映し出され、感涙モノのオマージュとなっています。

 いろんな意味で涙腺が開きっぱなしな映画でした。
 ぜひ、ハンカチを持って、ご覧ください。

ブロードウェイ♪ブロードウェイ〜コーラスラインにかける夢
2008年/米/監督:ジェイムズ・D・スターン、アダム・デル・デオ/出演:マイケル・ベネット、ドナ・マケクニー、ボブ・エイヴィアン、バイヨーク・リーほか/
新宿ピカデリー、Bunkamura ル・シネマほかで絶賛公開中!