「RENT」日本版の公演が行われています。日生劇場、宝塚劇場と並び、日比谷に誕生した新しい劇場「シアタークリエ」のオープニング記念公演ということもあり、相当力が入っています。実力派揃いのキャストたちが「RENT」へのアツい想いを伝えてくれる名舞台です。今月末までですが、まだ残席もありますので、ぜひご覧になっていただきたい!という気持ちで、観劇(感激)レポートをお送りします。(「RENT」をご存じない方は、まずこちらをお読みくださいますよう、お願いいたします)(後藤純一)
とにかくキャストが素晴らしかったです。事務所の力で配役が決まるような(芝居の中味と関係なくタレントのファンが押しかけるような)ステージとは対極にあり、ブロードウェイらしく、全キャストがオーディションで選ばれていますから、実力派揃いでした。
そして、出演者たちが自らオーディションを受けて勝ち取った役だけに、「RENT」という作品や役柄への思い入れがスゴく伝わってきました。エンジェルが天国に召されるシーンで男泣きに涙を流していたコリンズのように、本気さが随所に感じられました。2年前に観たNYキャストにひけをとらなかったとさえ思いました。
マークを森山未来、ロジャーをK(ダブルキャストで、僕が観た回はRyohei)、コリンズを米倉利紀、エンジェルを田中ロウマ(ダブルキャスト、もう一人は辛源)が演じています。「MTV世代のロックミュージカル」として聴かせ、盛り上げる、文句ナシのアツいステージでした。
目当てだったエンジェル役の田中ロウマは全く期待を裏切りませんでした。おおげさなオネエキャラではなく、品の良い愛されキャラなエンジェルを最大限魅力的に演じ、コリンズへの愛情表現も、少しも嫌味なく、自然でリアルでした。まるで本当につきあってるみたい…と思えました。(一点だけ、どうしても衣装が気になったのですが…それは後述します)
原作ではコリンズを体の大きな黒人の俳優さんが演じていて個人的にいちばん好きだったのですが、華奢だろうと思っていた米倉利紀が意外に体格が良くて、歌や表情も絶妙にセクシーで、ロン毛であるにも関わらず、すっかりファンになってしまいました。短髪にして二丁目にいたら「魔性の魅力」とモテはやされると思います。
マーク役の森山未来(あのセカチューの人がミュージカル出身だなんて知りませんでした。見直した!)、ロジャー役のRyoheiもものすごくうまかったし、役にハマってました。そして、ジョアンヌとモリーンのレズビアンカップルを演じたお二人(Shiho、Mizrock)も「こういうビアンカップルいるいる!」と思うような見事なリアルさで、拍手モノでした。
ステージは当然生演奏なのですが、舞台終了後、アンコールで観客が総立ちになり、もう一度キャストが「SEASONS OF LOVE」を歌ってミニコンサート状態になり、さらに、キャストの一人(白川侑二朗)のバースデイサプライズが行われ、床にビニールシートを敷き、裸でケーキを顔に…というおまけアトラクションもあり、とてもアットホームな雰囲気でした(ロウマくんが率先してシートを片づけていたところが好感度アップでした)。キャストの素顔が見えた瞬間でした。

「RENT」公式サイト
http://www.tohostage.com/rent/index.html
ご存じのように「RENT」はHIV/AIDSがまだ「死に至る病」だった時代の作品で(だからこそ「NO DAY BUT TODAY」なのです)、麻薬、人種差別、同性愛差別などと闘う貧しく若いアーティストたちが描かれています。そうした時代背景や文化的社会的なバックボーンを知らない日本で「RENT」がリメイクされるとき、ゲイやHIVのことがどのように描かれるか(原作のメッセージをちゃんと伝えてくれるかどうか)ということがどうしても気になります。
で、今回の公演で僕がスゴイ!と思ったのは、コリンズとエンジェルのゲイカップル、ジョアンヌとモリーンのレズビアンカップルがきちんと、おざなりでもギャグでもなく、抱き合い、キスを交わし(ディープではありませんが、ちゃんと見える形で)、リアルに愛情を表現していたところです。米倉利紀と田中ロウマのキスが劇中二度も三度も…スゴくないですか? それともう1つスゴい!と思ったシーンがあります。第一幕のラストで「La Vie Boheme/I shuld tell you」を歌う、原作で言うとレストランのテーブルの上で歌い踊るところです。途中、カップルどうしムードたっぷりに愛し合う(肩にもたれかかったり、手を腰に回したりする)場面があるのですが(当然コリンズとエンジェルも)、ある女性が、はじめ左隣りの男性と愛し合っていたかと思うと、今度は右隣りの女性とラブラブになり、男性がポツンと取り残される形となったのです。まさにブレイクスルーだと思いました。
HIVに関して言うと、パンフレットに記載された北丸雄二さんの文章が本当に素晴らしく、「RENT」に込められた思いを一手に代弁してくれていたように思います。この時代のイーストビレッジがどんな所だったか、住人たちにとってドラッグが何を象徴していたか、そしてエイズ禍の時代、いかにゲイたちが闘い、犠牲になったか…。この公演(プロダクション)の全体を通じて、最も深く、真実を伝える、本物の言葉でした。「死んでいった者たちの願い、見送った者たちの痛み――あの時代を生き延びた者たちはみな、そんな死者たちを取り巻く代弁者でした。今回『RENT』を上演する日本の若い役者さんたちもまた、あの時代の代弁者です。そしてその愛と涙とを、次には『RENT』を知ったあなたが伝えていってくれたらと思います」。ゲイやドラッグなどの問題をアンダーグラウンドとして丁寧に「消毒」してしまおうとする作用が多かれ少なかれ働いてしまう日本のエンタメ業界の中にあって、北丸さんの言葉はかけがえのない輝きを帯びていました。この言葉が多くの観客たちに届けられたことが奇蹟だと思いますし、この公演の成功を物語っていると思いました。
また、キャストたちが「私を変えた出会い」というお題でそれぞれコメントを書いているのですが、田中ロウマさんのコメントが思いがけず素晴らしかったです。アジア人ということでいじめられた子ども時代のこと、21で歌手になる夢に破れ、絶望していたとき、アダムという人と出会い、いっしょに暮らしながら、支えてもらったり励ましてもらったこと、そのおかげで今の自分があるということでした。そして彼はHIV陽性だったそうです。「RENT」を地で行くようなリアルさが胸にしみました。
今までいろんな舞台公演や映画のパンフレットを買ってきましたが、読んで泣けたのは初めてかもしれません。
ブロードウェイに彗星のように登場し、栄光をつかみ、さあいざ初演!という日の前夜、突然急逝した作者ジョナサン・ラーソン。彼の遺志によって、「RENT」の公演には必ずエンジェルシートという特別席が設けられています。
貧しくてRENT(家賃)を払えない!と歌うミュージカルを観るのがお金持ちだけなんておかしい、お金はないが明日はあるという若い学生や俳優志望の人たちがこの舞台を観ることができるように、毎回抽選で10席、格安で(今回はS席12000円のところ5000円で)最前列の特等席を買えるシステムがあるのです。
具体的には、抽選が行われる開演1時間前までに窓口に行って整理券をもらえばOK。平日の昼間などは60~70人中の10人ですから、かなりの確率で当選します。あの有名人たちが目の前で(1m以内の至近距離だと思います)歌う姿が観れるなんて、天にも昇る気持ちです。
お金はないが時間と熱意はある!という方、ぜひチャレンジしてみてください。きっと神様は(天国のジョナサンは)、観るべき方に席を用意してくださると思います。

というわけで、自信を持ってオススメできる舞台であったことは間違いないのですが、一点だけ、ゲイから見て「?」と思うところがありました。(きっと多くの人がそう感じたに違いありませんし、真実を伝えないと書き手の良心が痛みますし、「騙された」と言われないためにも、あえて正直に伝えることにいたします…)
それは、エンジェルの衣装です。
原作ではエンジェルはトランスジェンダー(またはクロスドレッサー)として登場します。常に女装しているし、「女性」として扱われたいと願っています。それはマークの「彼が」というセリフをコリンズが「彼女が」と訂正していることからも明らかです。
一方今回は、演出なのか衣装さんのアイデアなのかわかりませんが、男の子の格好と女装がまざっていました。最初見て驚いて、「今回はパーティの時だけドラァグクイーンになるゲイっていう設定なのかな?」と思いました。ところが、パーティの時だけじゃなく、日常の場面でも女装で登場するかと思えば、次のシーンではまた男に戻ったり、また女装したり…その女装も金色のギラギラ+グリーンのパンツだったり、白いワンピース+革ジャンだったり…とてもトランスジェンダーの方が着るような女物の服ではありません。そして、ゲイは日常生活では決して女装しません。おそらく、衣装をデザインした方が、ゲイとトランスジェンダーの違いをよくわかっていなかった、衣装が表現するジェンダーというものに無頓着だったのではないかと思いました。
そして、ドラァグクイーン的な雰囲気で登場するときの衣装が、エンジェルのイメージにそぐわない、センスのない(どちらかというと下品な)もので、ものすごーく残念でした。可憐でけなげで太陽のようなエンジェル、誰からも愛され、みんなの心をひとつにするエンジェルの「天使」のイメージが損なわれてしまい…おかげで「RENT」で最も悲しく涙を誘うエンジェルの死の場面にうまく感情移入できませんでした。
(ついでに言うと、ミミの大晦日の時の衣装も、金色の玉がつながったひも状のロングドレスで、かなり現実離れしていたうえに、センスを疑うものでした)
パンフレットによると、衣装を手がけたミシェル・R・フィリップスさんは、現実性を重視した、と語っています。当時のイーストビレッジの住人たちがどんな服を着ていたか僕らには知る由もありませんが、あの衣装がトランスジェンダーとしてリアルだと(そしてセンスがよいと)感じる方はほとんどいないのではないでしょうか?
せっかくの日本版リメイク公演だったのですから、衣装も日本のドラァグクイーンの方に任せていただければ最高の舞台になったのでは?なんて思いました。
…という問題はありましたが、総合的に見ると(あまりジェンダーとかセンスとか気にしないよ!という方には特に)とてもいいステージだったと思います。観てソンはないと思いますよ!