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Special

現在のロック・シーンで活躍するゲイ・アーティストたち

オルタナティブ・ロック・マガジン『COOKIE SCENE』67号(3月号)のゲイ特集から

カール・ビーン、トム・ロビンソン以来、数多くのミュージシャンがゲイであることをカミングアウトしながら活躍してきました。現在でもそうしたアーティストがロック界にたくさんいますが、意外と知られていなかったりします。ロック誌『COOKIE SCENE』がゲイ特集を組んでくれていたのを幸いに、今現在注目を集めているゲイのアーティストを紹介してみたいと思います。


『COOKIE SCENE』67号
ブルース・インターアクションズ/690円
 オルタナティブ・ロック・マガジン『COOKIE SCENE』3月号に「ゲイは身を助ける」という特集が組まれていました。
 「そもそもロックって興味ない(J-POPか、R&Bとかクラブ系)」って方も多いと思いますが、たとえば、80年代にクイーンやマドンナやシンディ・ローパー、マイケル・ジャクソンを全く聴いてなかった人っているでしょうか? カルチャークラブやデュラン・デュラン、デッド・オア・アライブ、ユーリズミックスは? もうちょいコアに入ってザ・スミスやキュアー、ニュー・オーダー、XTCあたりのニューウェイブを愛していた方も多いでしょうし、ビョークも忘れちゃいけないし、ペットショップボーイズも!さらに若い世代だとブラーやオアシス、スウェードなどのブリット・ポップにハマった人もいるでしょうし、最近ならフランツ・フェルディナンドやシザー・シスターズでしょう。そうです。決してメインストリームじゃないかもしれないけど、ゲイシーンでも確実にロックは鳴り響いてきたのです。そして、ロックの中でも、メタルやハード系よりは、ゲイが好きなジャンルの傾向がちゃんとあるのではないかと思います。

 さて、今挙げた中にもたくさんゲイのアーティストがいますし、上記以外にもデヴィッド・ボウイ、エルトン・ジョン、ジョージ・マイケル、マイケル・スタイプ(R.E.M)など、ゲイやバイセクシュアルのアーティストがたくさんロック界で活躍してきました。
 そうしてみると、オルタナ系(オルタナティブの定義は今やすごく曖昧で、80年代の商業的なロック以外は全部含まれちゃうそうです)の中にもゲイアーティストがいてもおかしくないし、実際にたくさん活躍している人がいる。この『COOKIE SCENE』の特集でそれがよくわかり、本当に面白かったので、ぜひご紹介したいと思いました。

ANTHONY&THE JOHNSONS

 まずは、表4(裏表紙)にもなっていたトランスジェンダーのアーティスト、ANTHONY&THE JOHNSONSのアントニー・へガティへのロングインタビューがこの特集のトリ(後ろからも読めるので、ある意味巻頭)になっていました。
 アントニーは英国に生まれ、カルチャー・クラブのボーイ・ジョージなどに強い影響を受け、ゲイの映画監督ジョン・ウォーターズの作品を元にした舞台劇を演出し、ニューヨークで実験演劇を学んでいるときにコケッツ(サンフランシスコのヒッピー文化とゲイムーブメントが結びついた伝説の演劇集団)のマーティン・ウォーマンに出会い…というように、そのバックボーンにゲイカルチャーが色濃くあります。
 アントニーにとって特別な存在は、アンディ・ウォーホールのお気に入りで60年代ニューヨーク・アンダーグラウンドを象徴する存在だった伝説の女装者キャンディ・ダーリング(その伝記映画の主演をめぐってマドンナとドリュー・バリモアが争ったそうです)。ANTHONY&THE JOHNSONSの2枚目のアルバム『I am a bird now』(英国最高の音楽賞マーキュリー・プライズを受賞)のジャケ写にもキャンディの有名な写真が用いられています。そのキャンディ・ダーリングのことを歌ったヴェルヴェット・アンダーグラウンドの名曲『CANDY SAYS』を、アントニーはルー・リードの『ベルリン』ライブ(ドキュメンタリー映画『ベルリン』が上映中)で歌い、それをインタビュアーが絶賛しています。ルー・リードも誇らしげにアントニーを紹介していたのが感動的だったそうです。アントニーは「キャンディ・ダーリングはヒーロー。あの曲はトランスジェンダーとして生きることの美と悲しみについての歌。大きな意味があった」と語っています。

『I am a bird now』
 それからANTHONY&THE JOHNSONSのニューアルバム『ザ・クライング・ライト』が「自然界と自らの関係についての探求」をテーマにしていることについて、アントニーは「キリスト教の考え方って女性を否定するものだと思う。そもそも女性の司祭すら認めていない。男の神様から生まれた価値観を打ち壊したい。トランスジェンダーとしてそう思う」と語っています。ちなみにこのニュー・アルバムは日本の舞踏家、大野一雄に捧げられており、ジャケ写には大野一雄が男娼を演じるモノクロームのポートレイトが使われています。
ANTHONY&THE JOHNSONSの動画はこちら

 

HERCULES AND LOVE AFFAIR

 続いて、アントニーもゲスト参加したニューヨークのエレクトロ・ポップ・ユニットHERCULES AND LOVE AFFAIRが紹介されています。キーボードのアンドリュー・バトラー(写真右から2人目)を中心とした流動的な編成のユニットです。
 記事を書いている『COOKIE SCENE』の編集長・伊藤英嗣さんは「ラリー・レヴァンのパラダイス・ガラージを彷彿とさせる」「2008年に発表されたすべての作品の中でもトップ10に入る」「自分が好きなアーティストはゲイだったりバイセクシュアルだったりすることが多い」「僕も心は女性みたいに感じてしまうことがある。だってその方が自由という気がする」と語っています。
 このHERCULES AND LOVE AFFAIRが素晴らしいのは、ゲイが生んだ偉大なカルチャーであるガラージ/ハウスへの惜しみない愛を表現していることです。シングル『Blind』のREMIXバージョンでは、なんとあの「GOD」フランキー・ナックルズをリミキサーに迎え、アントニー・へガティをボーカルに起用しています。ゲイカルチャーの過去と未来をこれ以上ないくらい理想的なカタチで交錯させたその手腕と「魂」は本当に拍手モノ。感動です。
HERCULES AND LOVE AFFAIRの動画はこちら

 

MATMOS

 続いて紹介されているのはMATMOS(マトモス)。ビョークのツアーメンバーとして有名です(最近のライブでは必ずバックで鍵盤やら機材やらをいじっています)。LAを中心に活動するM.C.シュミットとD.ダニエルの2人組ユニットで、ジャンルとしてはエレクトロ・ミュージックですが、自然界に存在する音をサンプリングして電子音と等価に扱うような、ロックというよりもはや現代音楽に近い作風です。
 2人はゲイカップルだとカミングアウトしていて、インタビューでは「ウィー・アー・ゲ~イ♪」と陽気に叫んでくれたそうです。この2人のなれそめが紹介されていたのですが(ゲイ雑誌かと思いました)、「ある日、僕がとあるバーに行ったら、そこで踊ってたゴーゴーダンサーにカワイイ男の子がいたんだ。その子はほとんど裸なんだけど、胸に魚(?)をつけていた。で、友達に『あの子カワイイんじゃない?』って言ったら、偶然その友達がその子のことを知っていて『ああ、あの子はエレクトロミュージックを作ってるのよ』って教えてくれたんだ。で、その後、彼のところに行って『君、エレクトロミュージックを作ってるんだって?』と声をかけた。で、『僕はスタジオを持っていて、そこにはコンピューターもあるんだけど、うちに来て音楽作ってみない?』って誘ってみたんだ(笑)。そこからすべては始まったんだよ」という、まんま僕らの日常を地で行くような話でした。それが今やワールドワイドなアーティストに…縁ってどこに転がってるかわからないですね。

『Rose Has Teeth In
The Mouth Of A Beast』
 ちなみにこのMATOMOSの2人、たとえば最新アルバム『Supreme Baloon』の1曲目は『Rainbow Flag』ですし、その前のアルバム『Rose Has Teeth In The Mouth Of A Beast』は、すべての曲がゲイの偉人に捧げられたオマージュになっていました。音楽はまったくキャンプではないですが、そこはかとなくゲイテイストが漂っているようにも聞こえますし、踊れたりもします。コンセプチュアルに(あるいはプロパガンダとして)ゲイが表現されている…ある意味、21世紀のゲイプライドミュージックなんだと思います。
MATMOSの動画はこちら

 

Rufus Wainwright

 その次に紹介されていたのは「稀代の天才シンガーソング・ライター」ルーファス・ウェインライトです。音楽一家の家に生まれたサラブレッドで、14歳でデビューし、ポップスとオペラを合わせた「ポペラ」とかモダン・スタンダードと呼ばれる華麗でドラマティックな音楽を生みだし、賞賛を浴びるようになりました。映画『ムーランルージュ』や『ブリジット・ジョーンズの日記』『シュレック』などのサントラにも曲を提供しています。今や、エルトン・ジョンやモリッシー、シザー・シスターズらがリスペクトを表明するアーティストとなっています。
 今回の特集記事では、様々な角度から、彼の音楽とゲイ性との幸福な関係が分析されています。中世の姫に扮したジャケットがステキなアルバム『Want Two』が「彼の中にある女性性、ホモセクシュアルとしての思いが表現された類い稀な一枚」と紹介されています。救世主がゲイとして甦るという(宗教関係者が激怒しそうな)内容の『Gay Messiah』や、ルーファスの女性性が最大限にスパークしている『Old Whore's Diet』、年上の美術講師にときめく少女の初恋のような感情を綴った『The Art Teacher』などに触れられています。

『Want Two』
 最も絶賛されているのは、ゲイ・イコンとして崇められるジュディ・ガーランドの華々しい復帰コンサートを収めた永遠の名盤『Judy at Carnegie Hall』を再演/再現するという一大プロジェクトで全公演大成功を収めたこと。中でも『Get Happy』ではルージュを引きハイヒール&網タイツ姿で観客を魅了!と伝えられています。「彼の音楽はゲイであることを差し置いてももちろん、普遍的な素晴らしさにあふれている。でもやっぱり彼の乙女な歌詞を聴くにつけ、オネエな部分を見るにつけ、ゲイでいてくれてありがとう!ゲイのあなたが好き!と思っちゃう」と締めくくられています。
ルーファス・ウェインライトの動画はこちら

 

その他の記事

 今さらというか、あまりにも有名なペット・ショップ・ボーイズも紹介されています。「ニールがゲイであることはプラスイメージでもマイナスイメージでもなく、音を聴けばよくわかる。彼らは桃源郷をとっくに突き抜けている」と評されています。

 そして、サイキックTVのジェネシス・P・オリッジ。スロッピング・グリストル(略してTG)という70年代後半に活躍したアンダーグラウンドなバンドが一部のティーンエイジャーにカルト的な人気を誇っており、「インダストリアル・レコーズ」というインディーズレーベルを主宰していました(インダストリアル・ミュージックの語源)。カルト的ではあるものの、世間の常識に背くスタンスが魅力だったそうです。そして、81年のTG解散後、ジェネシス・P・オリッジは、ピーター・クリストファーソン(元ヒプノシス)とともにサイキックTVを結成。よりカルト性を極めた音楽活動を始めました。近年のTG再編に際し、ジェネシスは性転換した姿で登場、「彼の常識に縛られない信念は本物だった」と語られていました。

 それから、『Lの世界』でアリスを演じて一躍有名になったレイシャ・ヘイリーが率いるバンド、UH HUH HER(ウーハーハー)の記事が1ページ大で。エレクトロなシンセサウンドが気持ちいいオルタナティブロックを鳴らしてるそうです。元マーマーズで、レズビアンミュージシャンのカリスマ、k.d.ラングと交際していたことでも知られる(どうりでタダモノじゃないと思った!)レイシャは今、レズビアンカルチャーのイコン的存在だそう。ということで『Tokyo Wrestling』のカイザー雪さんにインタビュー。『Lの世界』は監督さんもカミングアウトしているし、キャストやスタッフなども実際にレズビアンの方が多いそうです。そこから海外のレズビアンシーンや日本の現状が紹介されています。「ゲイにもいろんな人がいて一概には言えないけど、一般常識や固定観念にとらわれず、オープンで創造性豊かな人は多いと思います」「多様性に寛容でオープンマインドなゲイは魅力的。自分らしく生きるうえで日々さまざまな概念と闘って生きている。だからゲイ・アーティストたちの作品は自由で力強く、心を打つ」と語られています。素晴らしいインタビューでした。

 「アメリカのゲイ音楽カルチャー事情を現地レポート」というコラムでは、マンハッタンの『ミスター・ブラック』『スプラッシュ』などのゲイクラブ(敷居が高いそうです)や、ブルックリンのゲイクラブ(誰でもウエルカムだそうです)に言及しているほか、ゲイではないが、グラム風なスタイルでブレイクしているオブ・モントリオールのライブの模様などが紹介されていました。

 特集はそんな感じです。

 あと、表紙! 気になりますよね? 元ファットスリムボーイズのノーマン・クックが今はThe BPA(ザブライトンポートオーソリティ)というユニットで活躍していますが、そのアーティスト写真だそうです。(真ん中がノーマン。ようやるわ〜)
 名前の通り、ノーマン・クックはイギリスのブライトンにずっと住んでいるそうで、インタビューで「ブライトンはフレンドリーな街。いろんなライフスタイルに寛容で、ゲイ人口もとても多いんだ」「ゲイ文化、モッズ文化…ブライトンがいちばんだった」とコメントしています。

 ほかにも、「VISUAL OF THE MONTH」というコラムでは、ジャンキーや娼婦、ゲイといったテーマをロック・オペラとしたルー・リードの『ベルリン』が紹介されていたり、カジヒデキくんのコラム「BLUE SHIRTS FOR A BLUE DAY」では、イギリスでセンセーションを巻き起こしたゲイ2人による世界最強の爆笑コメディ『リトル・ブリテン』を「マスト!」と絶賛してくれてました。

 とにかく、海外(と言ってもたいがいUSかUKですが)の音楽シーンでは、あらゆるジャンルでゲイやバイセクシュアル、レズビアン、トランスジェンダーのアーティストたちが活躍しています。もはやそれが当たり前で何も珍しいことじゃないって感覚が日本でも浸透してきたし、いかにゲイ性が音楽にプラスに作用してるか、なんてことが日本の雑誌でも語られるようになったのです。
 そういう意味で、この『COOKIE SCENE』の特集は本当に面白く、意義深くもありました。
 ぜひお買い求めのうえ、保存版にしてください。