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ココロのビタミン vol.10 『リトル・ダンサー』

世の中の偏見に負けず、夢をあきらめず、家族の愛に支えられて成長する男の子の青春

『リトル・ダンサー』は、1984年のイギリス北部の炭鉱町を舞台に、一人の少年が、女の子にまじってバレエを始め、家族や社会との葛藤を乗り越えて成長していくという青春映画。涙なしには観れない、ゲイ必見の名作です。

第10回 貧しい田舎町でバレエを志す男の子の奇蹟を描いた青春映画『リトル・ダンサー』

『リトル・ダンサー』は、1984年のイギリス北部の炭鉱町を舞台に、一人の少年が、男性がやるのは恥だと思われていたバレエに夢中になり、家族や社会との葛藤を乗り越えて、ひたむきな情熱と才能、周囲の人たちの愛情に支えられて、プロのバレエ・ダンサーをめざすという青春映画。子ども時代の自分が救われるような思いがして、涙なしには観ることができない、永遠に大切にしたい名画です。

 『リトル・ダンサー』の舞台は、イギリス北部の貧しい炭鉱町(日本で言うと『青春の門』の筑豊とか、東北の田舎町のような)。主人公ビリー・エリオットの父親と兄は炭鉱で働いており、家には少し痴呆が始まった祖母もいて、生活は貧乏のどん底。不況のあおりを受け、父と兄はストライキを闘い、生きるのに必死です。しかし、そんな父の唯一の夢は、息子ビリーが将来、ケン・ブキャナン(当時のライト級チャンピオン)のようなボクサーになってくれること。一方、近所のボクシングジムに強制的に通わされているビリーは、どうしても人を殴るということが性に合わず、いつも負けてばかり。そんなとき、たまたまボクシングジムの片隅で女の子たちが音楽に合わせてバレエを踊るレッスンをしているのを見て、自分がやりたかったのはこれだ!と、ひそかにバレエを習い始めます…

 たぶん同じことを感じる人はとても多いと思いますが、ビリーの姿は子どもの頃の自分そのものです。ピアノやバレエを習う女の子たちを尻目に「どうして男の子がやっちゃいけないの?」とうらやましく思いながらも、それを言い出せなかった自分は、そのはけぐちを見出すように、ピンクレディーや聖子や明菜の振りマネに夢中になり、そして、大人になったらミュージカルの大舞台に…などという憧れを抱きながらも、保守的な田舎に住む「男の子」として、そんなバカげた夢をあきらめざるをえないのでした…

 「男がバレエをやるなんて恥だ」という社会通年(偏見)と、「こんな苦しい時にバレエなんて冗談じゃない」という貧困。田舎の炭鉱町で男の子がバレエを志すということのありえなさは、ほとんど絶望に近いものがあります。ビリーは当然のように家族の反対にあいますが、そのひたむきな情熱と、先生の親身な応援によって、猛反対していた父親や兄の態度が少しずつ変わっていきます。苦しい葛藤の末に家族の愛情が打ち勝っていくその過程に、心を揺さぶられない人はいないでしょう。涙なしには観ることができません。まるで我が事のようにビリーを見守っていた僕らは「(ゲイだってバレてもかまわないから)バレエをやりたい」と言い出せず、夢をあきらめてしまった子どもの頃の自分が赦され、癒されたような気がして、号泣してしまうだろうと思います。

 この作品を監督したスティーブン・ダルドリーは、ゲイであることをカミングアウトして、だからこそだよね、と納得させられるものがあります。が、映画の主人公ビリー・エリオットが成長してゲイになるのかどうかはわかりません(たぶん違うと思います)。が、それはどちらでもよいのです。「男たるもの、こうあるべき」という、社会が強制する性差の足枷を振りほどき、自由に跳躍するビリーの姿が、世界中の人々の、そして僕らの胸を打ちました。
 きっとこの『リトル・ダンサー』を「心の名画ベスト10」に選ぶ方はとても多いと思います。「人生にとって大切なこと」を、生きる勇気を、希望を教えてくれる作品です。

 
『リトルダンサー』 BILLY ELLIOT
2000年/英/監督:スティーヴン・ダルドリー/出演:ジェイミー・ベル、ジュリー・ウォルターズ、ゲイリー・ルイス、ジェイミー・ドラヴェン、ジーン・ヘイウッドほか 特別出演:アダム・クーパー