おうちでDVD派のアナタに贈るココロのビタミン。今回はミュージカル版も上演される『蜘蛛女のキス』をご紹介。極限的状況で生まれる愛の姿に感動し、たまらなくせつない気持ちにさせられる80年代ゲイ映画を代表する古典的名作です。

『蜘蛛女のキス』はアルゼンチンの作家マヌエル・プイグの小説に基づき、1985年に映画化された作品です。ウィリアム・ハートのアカデミー主演男優賞をはじめ、カンヌ国際映画祭など、各国の賞をさらい、一般的にも有名になった作品です。
ゲイにとっては、『モーリス』や『トーチソング・トリロジー』と並んで、80年代を代表する映画であり、多くの方たちにとって「忘れられない1本」となっているだろう作品です。「ゲイ映画の古典的名作」というアンケートがあったら、間違いなく上位に入ることでしょう。(「M☆Night」の悦郎太さんが、この映画が大好きで、ゲイの世界に入るきっかけになったと語っています)
『蜘蛛女のキス』はブエノスアイレスの刑務所の獄房という密閉された空間が舞台です。性犯罪で投獄されているゲイのモリーナと、革命を目指す若き活動家・ヴァレンティン。ヴァレンティンは初め、モリーナに素っ気ない態度を取っていましたが、自分が観たという映画のストーリー(南国の島に棲むという蜘蛛女が登場します。題名の由来です)を語って聞かせてくれたり、腹痛に苦しんだ時に献身的な介護をしてくれたりするモリーナに、少しずつ心を開いていきます。そして、実はモリーナがこの部屋に入れられたことには理由があったのですが、モリーナはいつか、本気で彼を愛してしまうのです。
決して「美人」ではありませんが、細やかな気遣いを持ち、情熱的に男を愛するモリーナ。拷問にも屈すせず、熱い志を持ち、真っ直ぐで不器用な若き革命家。モリーナが彼の男気に惚れてしまうのは本当によくわかります。思わず感情移入してしまい、2人が結ばれますように…と祈るような気持ちで観るはめになります。だからこそ、胸が締めつけられるような気持ちになるのです。愛しているからこそ…たまらなくせつないラストシーンです。
貧困にあえぐ人々を救おうという義憤から革命団に加わり、激しい拷問を受けるヴァレンティンと、社会からいわれなき差別や侮蔑を受けるゲイのモリーナ、2人の姿が監獄の中でシンクロし、極限的な状況の中で愛が生まれていくという卓越したストーリーです。
モリーナは、アジアやラテンアメリカなどに典型的に見られる女装したゲイ(伝統的なゲイ像)で、今の時代のマッチョ寄りなゲイ像とは異なるので、もしかしたらそこにある種の「古くささ」を感じる方もいらっしゃるかもしれません。が、ひたむきに男を愛するその気持ちは、僕らと何も変わりません。きっと泣けると思います。
これが上映されてもう25年も経つのか…と思うと、感慨深いですが、舞台では今でもたびたび上演されています。やはり永遠の名作なのだと思います。
<ストーリー>
南米の刑務所の監房の中。そこに二人の男が同じ房に入れられていた。一人は政治犯のヴァレンティン(ラウル・ジュリア)。偽造パスポートを使おうとして現場を押えられたのだった。もう一方のモリーナ(ウィリアム・ハート)はゲイで、風紀罪に問われて刑務所入りとなったのだった。同房に居合わせながら全く別の世界をもつ二人。映画好きのモリーナは、いつか観た映画の話をヴァレンティンに語り聞かせている。しかし、ヴァレンティンはその話にうんざりしており、同志と全く連絡もとれず、茫然とただ時を過ごす毎日だった。第2次大戦ナチ占領下のパリで、美人シャンソン歌手レニ(ソニア・ブラガ)と青年ドイツ将校が恋に落ちる…それがモリーナの語る映画の内容だった。ヴァレンティンにもかつては愛する女がいた。政治家と癒着する大資本家の娘で、革命を志す彼は、活動を続けるために彼女を捨ててしまったのだ。

『蜘蛛女のキス』Kiss of the Spider Woman
1985年/アメリカ=ブラジル/監督:エクトール・バベンコ/製作:デヴィッド・ワイズマン/脚本:レナード・シュレイダー/出演:ウィリアム・ハート、ラウル・ジュリア、ソニア・ブラガほか