あの集英社から発売された『じりラブ』は、うたぐわさんとツレちゃんの日常を描いただけでなく、世間をゲイの味方につけるような、自分自身も元気になれるような驚異的なパワーを持ったエッセイ漫画。ふつうに漫画としてゲラゲラ笑って読めますし(毒がたっぷり!)、栄養も満点な(心の薬にもなるのです)スゴ本です。騙されたと思って、一家に一冊ご用意ください!
うたぐわさんはもう10年もいっしょに暮らしているツレちゃんというアイカタさんがいます。2人ともリーマンですが、ご飯を作ったりするのはもっぱらうたぐわさん。一方、ツレちゃんが担当してるのは、茶助(ねこ)の面倒を見ることとダンスくらい(ツレちゃんはアイドル好き)。ツレちゃんが炊飯ジャーの内釜でお風呂の残り湯を汲んでしまうあたりとかは思わず吹き出していまいますし、2人が21世紀を迎える瞬間のエピソードはとてもラブリーで素敵です。
「男同士、じりじりするけど、愛がある」というキャッチコピーの『じりラブ』は、そんなうたぐわさんとツレちゃんのおもろラブリーな日常を描いた漫画です。と見せかけて、実際に読んでみると、もっともっといろんなことが描かれている傑作でした。
うたぐわさんはAll About[同性愛]のガイドとして新聞に名前と顔写真が載るという全国的なカミングアウトを果たしたツワモノ(2001年当時、相当な勇気が要ったことでしょう)。なので、会社の人も全員、彼がゲイだと知っています。女性社員はすんなり味方になってくれますが(中には天敵みたいなキャラも登場しますが)、ノンケ男性社員の中には、予想通りというかステレオタイプというか、「オカマキモい」とか「俺は襲うな」とか「社員の誰が好きなんだ」とか、デリカシーのなさまるだしな人も…でも、うたぐわさんはめげません。ちゃんとみんなに平等に「デレデレ」してあげたり(さぞかし大変だったことでしょう)、笑わせたり、ときにはサシで食事したりして、ゲイのことを1つ1つ理解してもらい、みんなとなかよくしていったのでした。その涙ぐましい努力が報われたときのうれしさ。絶対にゲイのことを悪く言わない味方が現れたときの感動のエピソードなどは、ちょっとジーンとさせられます。
うたぐわさんは親戚の集まりでもサイトを見た人からゲイであることを親戚中にバラされてしまいます…その結末は…ぜひ、『じりラブ』を読んでみてください。
そして、二丁目のことを描いた最後の章では、いろんなキャラのゲイたちが登場し、二丁目のキホン(捨てるゴミなし、とか)をいろいろ紹介しつつ、家族にカミングアウトした人やパレードの感動話なども盛り込まれていて、見事なゲイガイドになっています。
もともとのblog「♂♂ゲイです、ほぼ夫婦です」自体もそうですし、『虹色』での連載「ノンケのためのゲイのトリセツ」もそうですが、『じりラブ』は世間のノンケの方々にゲイのことを理解していただき、味方につけるための格好のテキストと言えます。なにしろ漫画なので小難しさも高飛車な感じもいっさいなく、友達や家族にカミングアウトする際のツールとしても絶大な威力を発揮するハズです。笑いの力は偉大です。
また、こんなことも言えます。
ゲイに限らず、世間の多くの人たちに言えることですが、今の時代、「どうして僕はこんなふうに生まれてきたんだろう。超アンラッキー」「もっと僕のことを理解してくれる世界があるハズ」「今の僕が輝いていないのはきっと周りの環境のせい」と考えがちな人、けっこう多いと思います。それに対し、うたぐわさんは、会社で堂々とゲイとして生き(なおかつ仕事もきちんとやり)、全社員に認められるという偉業を成し遂げ、与えられた環境を生き抜く知恵やバイタリティの大切さを伝えてくれています。
世間の人たちにゲイのことを好きになってもらえるような最良のテキストというだけでなく、さりげなく自分自身への励ましにもなるような本、という意味でも名著です。
会社でカミングアウトしてみんなに好かれる存在として仕事も立派にこなしていく…できそうでなかなかできないことです。あくまで楽しそうに描いてますが、かなりのタフさが要求されるハズ。それができたのは、うたぐわさんだからこそ。本当に尊敬します。
と書いてきましたが、何も考えずに読んでもふつうにゲラゲラ笑って「ああおもしろかった」とすっきり、楽しめます(ギャグ漫画としても秀逸なのです)
巻頭16ページはフルカラー、そしてとってもカワイイ「パラパラ漫画」もついています。実にいろんなサービスがほどこされているのです。周りの人を笑わせ、楽しませるサービス精神の旺盛さ、でもちゃんといろんなことを押さえてる…それはうたぐわさん本人のキャラそのもの。『じりラブ』はうたぐわさんの魅力が全部詰まった結晶とも言うべき作品なのです。
世の中には「どちらかというと美女ではない女性漫画家によるちょっと自虐的な爆笑エッセイ漫画」的なジャンルの作品が多数出版され、女性にもゲイにもウケていると思いますが、そうしたエッセイ漫画の中に置いてみても全く遜色のないクオリティがあります。そればかりか、濃さと面白さ(テンション)をしっかり前面に出しながら、決してゲイであることを恥じたり貶めたりせず(ヘンに美化したりもせず)、用意周到に世間の人たちを味方につけてしまうような力を持ったスゴい一冊です。
これが集英社から発売されたことがさらにスゴいと思います。だってあの『ジャンプ』や『りぼん』や『マーガレット』の集英社ですよ。『Dr.スランプ』や『キン肉マン』や『ベルばら』や『エースをねらえ!』や『有閑倶楽部』などと同じ出版社からゲイ漫画が発売されたのです。これって歴史的快挙じゃないでしょうか?
ベストセラー・ウェブコミックのはしりとなった『きょうの猫村さん』は、1巻2巻合わせて90万部を売り上げたそうです。『じりラブ』もぜひ、そんなベストセラーになってほしいと思います。
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じりラブ
うたぐわ/集英社/1000円