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Special

前田健の小説『それでも花は咲いていく』

とても初めての小説とは思えない…まえけんの経験と想像力が活かされた傑作でした

ゲイの芸人・前田健さんが発表した処女小説集『それでも花は咲いていく』は、セクシュアルマイノリティの苦悩に寄り添い、癒しや感動を与えてくれるような、ちょっとビックリするくらいの名作でした。この境地に立てるのはゲイだからこそです、間違いなく。前田健さんの経験してきた苦労の大きさや、人間力のようなものを感じさせました。

ゲイの芸人・前田健さんが発表した処女小説集『それでも花は咲いていく』は、セクシュアルマイノリティの苦悩に寄り添い、癒しや感動を与えてくれるような、ちょっとビックリするくらいの名作でした。この境地に立てるのはゲイだからこそです、間違いなく。前田健さんの経験してきた苦労の大きさや、人間力のようなものを感じさせました。


『それでも花は咲いていく』
前田健/幻冬舎/1,365円(税込)


 ロリコン、ニンフォマニア、マザコン、ホモセクシャル、マゾ…などという文字が並ぶキャッチコピーを見て、「あややのマネしてるオネエ系タレントがタレント本ブームに便乗して、“変態”をウリにして興味本位で買わせようとしている」という印象を抱く方も多いことでしょう。
 確かにそうした興味に訴えて買ってもらおうとしているのでしょうが、実際に読んでみると、そういう週刊誌やスポーツ新聞的なものとは全く異なる文学作品であることがすぐにわかります。
 
 花の名前がついた9つの章(短編小説)が並んでいます。
 「エーデルワイス」は、子どもしか愛することのできない男性が主人公です。伏見憲明さんが『欲望問題』の冒頭で痛切に描いたように、主人公は自身の欲望を満たすことができない苦しみを一生抱えたまま生きるしかありません。それはもう本当に、せつない…としか言えません。
 「ダリア」は、自身を「ヒトデナシ」だと感じる、SEX依存症の女性が主人公です。彼女が乱交パーティで感じるエクスタシー(ある種、麻薬的な快感)は、まんま僕らが経験してきたことです。他人事とは思えないどころか「自分のことが書いてある」とすら思えます。
 「ヒヤシンス」では、今まであまり見たことのないタイプのセクシャリティが描かれています。犯罪スレスレ…ていうか、見つかったら犯罪。バレないかどうか、こっちも思わずドキドキしてしまいます。
 「デイジー」の主人公は、二次元コンプレックス(いわゆるオタク)。しかし、予想外の展開が待っています。
 「ミモザ」のテーマは、たぶんこの中で最もメジャーです。映画化される際はぜひ、杉本彩さんに演じていただきましょう。相手役は野郎系のゲイの方にぜひ、と思います。
 「リリー」が扱うセクシャリティは、おそらく日本で初めて文学作品になったのではないでしょうか。ゲイにはなかなか実感として理解ができないのですが、いっしょにパレードを歩いたりするような仲間です。画期的だと思います。
 「パンジー」は僕が最も感動した章です。古今東西、どの地域、どの民族でも禁忌とされてきた、許されざる愛。絶望的に手に入らないからこそのせつなさ。にも関わらず…
 「カーネーション」にシンクロする方もゲイの世界ではけっこう多いと思います。何も問題ないのに、なぜか世間ではなかなか認められないんですよね…。この本の中でいちばん幸せな主人公。癒しと感動があります。
 そして、最終章の「サンフラワー」がゲイのお話です。なよなよしたオネエさんというステレオタイプを打ち砕き、主人公はなんとボクサーです。ゲイのボクサーってありえなくない?と思う方も多いでしょうが、読むと、まえけんさんの言いたいことがよくわかります。たぶん世間の荒波の中で闘ってきた、自身の経験が反映されてるんだろうな…と思います。


 1つ1つが独立した短編小説で、濃密な世界が生み出されています。読んでいる僕らは、いつの間にか本の主人公たちにシンクロしており、彼らの苦悩に寄り添い、運よく光が差してくると、いっしょになって癒されます。時には涙を流したりもすると思います。そうやって全部を読み終わると、「異常性欲」とか「変態」というレッテルを貼られ、恥辱にまみれていた人たちに対する侮蔑や嫌悪感がぬぐい去られ、やむにやまれぬ事情があるんだな…とか、すぐ身近でこうして悩んだり闘ったりしている人がいるんだな…と思えます。そうです、「Living Together」の手記のような作品なのです。

 そして、世界的な映像作家と比べるのはちょっと大げさかもしれませんが、『ショートバス』という映画を思い出しました。
 満たされない性に悩み、生きていく意味をも見失いかけている人々(ゲイだったり、女性だったり)が、様々な出来事をきっかけに癒されていく…という、ちょっと寓話的でもある物語。成人指定されるような衝撃的な性描写が出てきますが、体の底の方から深い意味で「癒し」を得られる、奇蹟のような作品。全く宗教的な匂いはないのに、間違いなく「救済」を描いた作品です。

 ノンケの人たちの中には、「軽いSM」とか「おむつプレイ」とか「アナル性感」といった「ちょっと試してみる」レベルの「逸脱」を楽しむ方がけっこういると思います。おそらくそれは「好き者」「スケベ」という感覚です。そんな人たちが、「足フェチ」や「スカトロ」などは理解不能な「変態」、「小児愛」「近親相姦」などは犯罪として片付け、平気で侮蔑したり、非難したりしてしまえるという現実があると思います。この本は、そういった人たちにこそ読まれてほしいと思います。
 性的指向としてはストレートであっても、自身のセクシャリティをなかなか周囲にカミングアウトできず、プライドを持つこともできず、自分を責めながら、苦悩を抱えながら生きている人たちがいます。彼らもまた、僕らと同じ「セクシャルマイノリティ」なのです。そして、同じゲイであっても、さらに二重のマイノリティ性を抱え、笑い者にされたり、なかなかそのことを言えなかったりする人がいるということも、思い出しましょう。
 『それでも花は咲いていく』は、すべての「セクシャルマイノリティ」として生きる人たちへの讃歌なのです。