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Top » News » 高齢の同性愛者のための福祉複合施設の提案

日大芸術学部の留学生の方が「高齢の同性愛者のための福祉総合施設」を論文に

高齢の同性愛者のための施設の意義を世に問うものです

2010年02月08日

 ゲイコミュニティが成熟を迎えた約10年前から、ゲイの高齢化や老後の問題が議論されてきました。
 伏見憲明さんは2001年に『Queer Japan』vol.5「夢見る老後」(勁草書房)でゲイの老後の問題を鋭く世に問いました。永易至文さんの『にじ』(2002~2004年)でもエイジングについて繰り返し語られていました。昨年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でも、大塚隆史さんと尾辻かな子さんがこの問題についてトークしたのも記憶に新しいところです。

 ゲイライターの中井伸二さんの記事「『性』は虹色 高齢同性愛者のための福祉複合施設を考える」によると、3年前に台湾から来日し、日本大学大学院の芸術学研究科造形芸術専攻(博士前期課程)で建築デザインを学んできた曽永宏さん(29)が、博士前期学位請求論文(修士論文)として「ジェンダーと空間の老人学」をテーマに、『「同性愛者」の「高齢者福祉複合施設空間」』という論文を提出したそうです。
 ゲイの老人ホームという構想は様々に語られてきましたが、具体的な施設のデザイン案まで示されたのは、おそらく初めてのことです。
 以下にご紹介いたします。
 
 この論文の中で曽さんは、まず、高齢化社会の中で実際に歳を重ねている日本のゲイの問題意識について触れます。「新宿二丁目では、ゲイの老人ホームや高齢者ゲイが身を寄せ合う共同住宅などが『あったらイイのにね』と言われるけども、大方はあきらめの境地。内心では不安を抱きながらも、培ってきたコミュニティの支えによって、独り老齢を生き抜く手立てをどうにかこうにか考えてゆくだろう。楽観的に捉えるしかないのが現状だ」
 続いて曽さんは、性のグラデーション=性自認と性的指向の多彩さについての説明を経て、いま日本に、65歳以上の高齢者ゲイが約36万人~60万人の規模で存在していると推計します。日本における同性愛の歴史を展望しながら、東京で最も古い繁華街である浅草界隈に高齢者ゲイが集うゲイバーやハッテン場が数多く点在することに注目した経緯を説きます。
 建築デザインが専門である曽さんが論文とともに提出する卒業作品に定めたのが、高齢に達したLGBTが利用することに主眼を置いた「高齢者福祉複合施設」の設計です。曽さんは、同施設のデザイン概念として、いわゆる男女二元論に留まらず、そこに二元論から発展した多元論を融合させようと考えました。漢代の書物『淮南子斉俗訓』における「宇・宙」の捉え方や、陰陽五行思想に基づく「八卦」の考え方などが応用されているそうです。
 高齢者LGBTのための福祉複合施設には、安心快適で尊厳ある生活を旨とした医療・介護・娯楽・居住のための4つの空間が提供されます。建設位置は仮に浅草エリアと想定され、例えば浅草寺・五重塔の高さを越えず、景観を損なわないような配慮が行われています。
 この論文は以下のように結論づけられています。
「同性愛者の高齢者福祉複合施設は、彼らの『拠り所』つまり所在を現したものである。本論を記すにあたって、その需要性、特異性の説明を多く求められた。使用者はいるのか、既存の高齢者施設と何が違うのかということである」
「潜在数と浅草の実例から、高齢男性同性愛者の施設の需要はあるだろう。そして前述のとおり、施設の差異はあまりない。本論を記すに至った動機のひとつは少数派の権利の黙殺である」 
 曽さんは、高齢者LGBTのための施設という発想そのものが必要ないとの周囲の反応に戸惑い、それに立ち向かってゆくことの難しさを痛感したそうです。一人でも多くの人々にLGBTの存在を理解してもらうためにこそ、この「高齢者福祉複合施設空間」のコンセプトを世に問うのだそうです。
 同論文の終章「同性愛者として生きる」の中で、曽さんは、次のように述べます。
「私の現状は、同性愛者として生活している。いままでの恋愛対象は年上、とりわけ『高齢者』とされる人であった。本論は空間研究者としての私が、その人たちに微力ながら貢献できることを目的とした。(中略)今回のテーマについて、すべての人のためにはならないかもしれない。そして、社会に与える影響も微々たるものである。このようなテーマは、建築の仕事につながらないことが多いであろう。それでも、ジェンダーによる差別解消のひとつとして執筆するに至った」
 
 中井さんは「高齢化社会において、高齢者のゲイ(LGBT)が抱える孤独といった問題ももっと語られるべきだが、日本では、まだまだそこまでの深さでは注目されていないのが現実」と言い、曽さんがこの論文の中で日本のゲイ(LGBT)のために世間に向けて放ってくれたメッセージに強く感銘を受けたそうです。「国籍や領海線を超え、ともに手を携えて、ジェンダー・性自認・性的指向による差別意識や偏見と対峙し、問題の解決に当たろうと力を尽くしてくれるゲイ青年の友愛に、筆者は強く打たれてやまない。一人の友人として、そして同じ性的指向に生まれついた者として、彼のさらなる研究を見つめつつ、これからも応援をさせていただきたいと考えている」
 
 曽永宏さんの研究作品である高齢者LGBT福祉複合施設の建築模型とその解説は、2月8日(月)から14日(日)まで、下記の展示会に出展されます。興味のある方はぜひ、ご覧ください。
 
日本大学芸術学部デザイン学科 卒業制作選抜展・造形芸術専攻修了展
開館時間:10:00~20:00
会場:日本大学法科大学院/1Fアートプラザ(千代田区駿河台1-6)
入場無料


【特集】「性」は虹色 高齢同性愛者のための福祉複合施設を考える(JanJanニュース)
http://www.janjannews.jp/archives/2542866.html