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Special

「ゲイミュージックワールド」第1回

ゲイミュージックを愛してやまない藤嶋貴樹さんによる本格連載「ゲイミュージックワールド」です。

「QUEER MUSIC EXPERIENCE」を世界に発信しつづけ、ゲイミュージックを愛してやまない藤嶋貴樹さん。ゲイインディーズを含め、世界中のゲイのミュージシャンについて語る連載「ゲイミュージックワールド」をお送りします。

みなさん、はじめまして。藤嶋貴樹と申します。

以前は『G-men』や『さぶ』などのゲイ雑誌で、小説を書かせてもらっていました。現在では『Queer Music Experience.』という音楽サイトを立ち上げて、ゲイ・ミュージックを含むクイアー・ミュージック(LGBTミュージック)全般についての情報を発信する活動をメインとしています。そしてこの度、gay life japan 編集部からお話をいただき、この連載の運びとなりました。

海外のゲイ・ミュージック情報や、日本のゲイ・コミュニティを中心に展開しているゲイ・ミュージック(ゲイ・インディーズ)の紹介、そのライブ・イベントの模様など、リアルタイムの話題はもちろんのこと、多くのリスナーから長年に渡って愛されているゲイ・ミュージックの名曲や、あるいは廃盤などの理由で現在では埋もれてしまっている過去の名曲などについても、積極的にスポットを当てていこうと考えています。

まあ、早い話が、ゲイ・ミュージックの話題なら何でもあり! っつーことで(笑)。

これからもどうぞよろしくお願いいたしまーす。

 

 

第1回 ゲイ・ミュージックとは何ぞや?


さてさて。

具体的な話題をお届けする前に、第1回目の今回は、「ゲイ・ミュージックとは何ぞや?」ということについて書かせてください。

このコラムで、私は当たり前のように「ゲイ・ミュージック」という言葉を使ってここまで書き進めてきましたが、そもそも「ゲイ・ミュージック」とは、いったいどのような音楽を指していう言葉なのでしょうか?

ゲイ・ミュージックに限らず、実はゲイ・カルチャーそのものが、総じて定義があいまいだったりします。

たとえば、ゲイ・テーマの小説やマンガを指して、私たちはよく「ゲイ小説」とか「ゲイ・コミック」って言いますよね? じゃあ、それら「ゲイ小説」とか「ゲイ・コミック」の正確な定義を、みなさんはどのようなものだと考えておられますか?

ゲイの出てくる物語? それとも、ゲイの作者による物語?

ゲイの作家によるゲイ・テーマの作品。これはまぎれもなく「ゲイ小説」であったり「ゲイ・コミック」だったりしますよね? だとしたら、ゲイの作家による異性愛テーマの物語は、はたして「ゲイ小説」や「ゲイ・コミック」に分類できるのでしょうか? 反対に、ノンケの作家が書いたゲイ・テーマの作品はどうでしょう? さらに突っ込んで言うと、ノンケの作家による非ゲイ・テーマの作品であっても、その中に登場するキャラクターの造形とか関係性に、同性愛的要素が読み取れるのであれば、それは「ゲイ小説」あるいは「ゲイ・コミック」として認知されている場合だってあるんですよ。吉田秋生先生の名作マンガ『BANANA FISH』なんかはその代表例ですよね。

うーん、ややこしい。

こうして考えていくと、結局のところ「ゲイ小説」とか「ゲイ・コミック」という分類の仕方は、「その作品がどのように読めるか」という、いわば「読者の側の読み方」に基づくものなんですよね。

しかも、その物語をどのように解釈するかは、100%読者の自由です。読者が100人いれば、100通りの解釈がある。

つまりは「読者の主観」に基づいた分類なんです。

そのような分類の仕方である以上、実は「ゲイ小説」とか「ゲイ・コミック」を定義づける明確な一線は、存在していないんですよね。定義づけること自体が既に困難なんです。

で。

「ゲイ・ミュージック」も、やっぱりこれと同じだったりします。

たとえば、ゲイであることをカミングアウトしているアーティストの歌う異性愛テーマの曲は、はたして「ゲイ・ミュージック」に分類できるのか? とか、あるいは反対に、歌っているのがノンケのアーティストであっても、それがゲイ・テーマの楽曲であれば、それは「ゲイ・ミュージック」に分類すべきなのかどうか? とか。

俗に言うオネハ(おねえハウス)を「ゲイ・ミュージック」と呼んでいるかたも、大勢いらっしゃいます。この場合は、歌っているアーティストの性的指向とか楽曲のテーマに基準を置いているのではなく、「ゲイのリスナーから支持されている」という、リスナーの側の事情に基準を置いています。つまり、この場合の「ゲイ・ミュージック」というのは、アーティストがゲイだから「ゲイ・ミュージック」なのではなくて、リスナーがゲイだからという意味での「ゲイ・ミュージック」なんですね。

かような具合に、「ゲイ・ミュージック」の定義も、「ゲイ小説」や「ゲイ・コミック」と同じく、やっぱり非常にあいまいなんです。

が、しかし。

私こと藤嶋貴樹が運営している『Queer Music Experience.』では、そのようなあいまいな「ゲイ・ミュージック」に、あえて明確な1つの定義を与えています。

それはいったいどのような定義なのかというと、

「レズビアンやゲイ、バイセクシャル、あるいはトランスジェンダーであることを公にしているアーティストによって歌われたり演奏されたりしている音楽」

――これが、私の考えている、ゲイ・ミュージックもその一部として含めたクイアー・ミュージック(LGBTミュージック)の定義です。

この定義は、かつて J-POP シーンでもてはやされていた「ガールポップ」という分類に、少し似ています。

ガールポップというのは、1990年代にソニー・マガジンズから発刊されていた雑誌の名称(正確な表記は『GiRLPOP』)です。当時台頭していた若手女性アーティストたちの音楽を総称する言葉としても、のちには用いられるようになりました。

本来ならば女性アーティストの台頭を示していた言葉ですから、この分類の仕方には、具体的な音楽性というものは何ら反映されていません。当時そこに分類されていた女性アーティストには、初期は谷村有美や森川美穂などの女性シンガー・ソングライターが、そして後期には安室奈美恵や浜崎あゆみといった avex trax の女性ヴォーカリストなどが含まれていました。音楽性は実に種々雑多、かなりの多岐に渡っていましたが、それらのアーティストに共通して言えたのは、ノンケ男子のアイドルであるというよりは、むしろ同年代の女性たちからロール・モデルとして支持される傾向が強かった、ということです。

ガールポップという分類は、音楽性には基づいていません。性別に基づいたものです。それゆえに、ガールポップという分類を性差別的なものだと考えることも、実は可能です。にもかかわらず、そうした批判をおこなった人はほとんどありませんでした。なぜかというと、それはガールポップという分類が、音楽産業という男性優位社会における、女性アーティストたちの台頭を象徴したものだったからです。そして、その動きの中で活躍する女性アーティストたちの多くが、同年代の女性ファン層から、ロール・モデルとして強く支持されていたからなのです。

つまり、ガールポップという分類は、女性アーティストを差別的に扱ったものではなく、男性優位社会の中で能動的に活躍する女性アーティストたちを讃える分類でもあったんですね。


そして。

「ゲイ・ミュージック」という分類も、それと同じ性質のものになり得る可能性を、実は秘めていると私は思うんです。

だからこそ、私は「ゲイ・ミュージック」という分類の定義を、先に述べたようなものとして考えているんですね。

この、「ゲイ・ミュージック」の定義についての話は、『Queer Music Experience.』の中の「What's Queer Music?」というページにも以前に詳しく書いているので、是非そちらも併せて読んでみてください。

「What's Queer Music?」
http://k-serv.homedns.org/QueerMusicExperience/whats_queer_music.html

ちなみにですね、この「What's Queer Music?」というテキストは2005年の1月に書いたものなので、そこに新しい情報を捕捉する意味で書いておくと、アメリカやイギリスでは、私の『Queer Music Experience.』と同じような主旨になる、「LGBTアーティストによるロック/ポップスの情報を集めたウェブサイト」が、じわりじわりと数を増やしているんです。それらのウェブサイトで扱われているクイアー・ミュージック(LGBTミュージック)とは、もちろん、「レズビアンやゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーであることを公にしているアーティストたちの楽曲」のことです。

そのような状況を鑑みるに、今回のコラムに書いたクイアー・ミュージックの定義は、たとえ括りとしては大雑把であっても、そこには明瞭な一線があるからこそ、どうやら現在では、地域ごとの文化の違いを超えた世界基準となりつつあるみたいですね。そう考えても、おそらく差し支えはないでしょう。

ゲイ・カルチャー全体の歴史を俯瞰する上では、「異性愛のアーティストが歌っているゲイ的な内容の曲」とか「ゲイから強く支持されている異性愛のアーティストの曲」、さらにはオネハの有名曲などといった意味合いでの「ゲイ・ミュージック」も、非常に重要ではあるんです。

しかしながら、そういった楽曲やアーティストたちの話題はあえて周縁的なものと考えて、ここではレズビアンやゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーであることを公にしているアーティストの楽曲という意味でのクイアー・ミュージック、およびその一領域としてのゲイ・ミュージックについて書いていく予定です。



と、ここまで書いてきたものを自分で読み返してみると。

なんだか第1回目からかなり堅苦しいことを書いてしまったなー、って感じですねー。orz

えっとですね、ここでいちばん伝えたかったことというのはですね、ゲイ・ミュージックとかクイアー・ミュージックという言葉を前にしたときに、「それは性的少数者を特殊扱いした括りなんじゃないのー!?」みたいな感じで懐疑的に考えるのは後回しにして、まずはもっと気軽に、かつてのガールポップと同じ感覚で、ゲイのアーティストたちの音楽を楽しんでみるっていうのも、そんなに悪いことではないんでないかい? ってことなんです。

「ゲイ・ミュージック」という分類をもっと気軽に享受することで、そこから見えてくる新たな地平だって、きっとあるはずだと思うんです。

まあ、私が書いた今回のコラムを「気軽な内容」と受け取る人は、あんまりいないような気もしますが(笑)。

次回以降はもっと気軽な内容にしていく心づもりなので、どうかこれからもお付き合いくださいませ。

では、また!

『Queer Music Experience.』
http://k-serv.homedns.org/QueerMusicExperience/