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Special

『INSIDE OUT the LIVE 2009 SPRING』レポート

ゲイ・インディーズ・ミュージシャンのライブイベントの様子を藤嶋貴樹さんがレポートしてくれました

4月11日に新宿「FUTURE NATURE VALVE」にて行なわれたLGBTミュージック・ライヴ・イベント『INSIDE OUT the LIVE 2009 SPRING』の模様を、藤嶋貴樹さんがレポートしてくれました。

Photo: Takaki Fujishima

第7回 INSIDE OUT the LIVE 観覧記

 今回の『ゲイミュージックワールド』は、去る4月11日に新宿 FUTURE NATURE VALVE にて行なわれたLGBTミュージック・ライヴ・イヴェント『INSIDE OUT the LIVE 2009 SPRING』の模様をお伝えします。

 このライヴのオーガナイズと司会を務めたのは、城野祐樹さんと田中守さんのお二人。

 城野さんは、パートナーの HISAO さんと音楽ユニット NEUTRAL を1998年に結成(現在では、同名のユニットが他にも活動していることから、混同を避けるために「城野祐樹×HISAO」名義で活動されています)。以来、ゲイ・コミュニティで音楽活動に取り組むのと併行して、本来は NEUTRAL のアーティスト・レーベルとして設立した YOURFACTORY RECORDS を、日本のLGBTミュージックの一大レーベルへと成長させ、さらに YOURFACTORY ENTERTAINMENT にまで拡大。実に数多くのLGBTアーティストが、ここから作品をリリースしていきました。残念ながらレーベルの運営は2008年3月をもって終了していますが、現在は YOURFACTORY PRODUCTION として、今回のようなイヴェント運営を手がけておられます。日本のゲイ・インディーズ・シーンの基盤を築き、その発展に今日もなお貢献を続けていらっしゃる、偉大な功労者のお一人です。

 一方、田中守さんは、『ゲイミュージックワールド』の第4回で紹介した昨年11月開催の GLAP にも出演されていた、ゲイ・アイドル路線のシンガー・ソングライターさんです。

 このお二人がタッグを組んで企画されたのが、今回の『INSIDE OUT the LIVE 2009 SPRING』。

 YOURFACTORY ENTERTAINMENT は2000年から2006年まで、毎年12月にコンピレーション・アルバム『INSIDE OUT』シリーズをリリースしていました。今回の『INSIDE OUT the LIVE 2009 SPRING』は、そのライヴ版。アルバム『INSIDE OUT』は、その年に活躍したゲイ・インディーズ・アーティストの楽曲を多く集めるという、シーンの1年を総括する内容のコンセプト盤で、「ゲイ・ミュージックの紅白歌合戦」というキャッチが謳われたりもしました(誰が紅で、誰が白か、などという野暮なことは訊かないように)。

 今回、私こと藤嶋はリハーサルから取材させていただいたのですが、城野さんや田中さんと縁のあるアーティストさんが顔触れの中心だったこともあり、出演者同士のピリピリしたムードは皆無。アットホームな雰囲気のままで本番が始まりました。

 

 トップバッターは、虹組ファイツ。今回のライヴに合わせて企画された新しいゲイ・アイドル・グループです。この虹組ファイツがユニークなのは、mixi のコミュニティ「ゲイアイドルグループをつくろう」の参加者によるディスカッションを通じて、グループ名やコンセプト、曲のタイトルなどが決定され、メンバー募集もコミュニティを通じて行なわれているところです。

  「LGBTシーンで活動する『ゲイアイドルグループごっこ』を楽しむサークル集団」というコンセプトのもと、まずは「登録メンバー」としてコミュニティを通じてグループに参加し、そしてライヴやレコーディングなどのイヴェントに参加できるメンバーは「選抜メンバー」として実際の活動を行なっていく、というシステムです。したがって、今回出演された虹組ファイツのみなさんは「選抜メンバー」。次回のライヴ出演の際にはまた違った顔触れになっているかもしれないという、今までにないゲイ・アイドル・ユニットです。

 虹組ファイツは4月17日から第二期メンバーの募集を開始しました。締め切りは2009年6月1日。自分でもゲイ・アイドルをやってみたい! というかたは、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか? 
mixi コミュニティ「ゲイアイドルグループをつくろう」

 今回の「選抜メンバー」のうち、岡本忍(ていうか、田中守)さん以外のみなさんは、いずれもライヴ初体験。メンバーの平均年齢も他の出演者に比べて若く(笑)、実に初々しいデビュー・ライヴとなりました。緊張でガチガチになっているメンバーのみなさんの様子をリハーサルで拝見した藤嶋は、すっかり親ごころがわきまくり。本番では冷静にカメラのシャッターを切りつつも、内心では「がんばってー! おばちゃん(藤嶋)も見守ってるからねー!」と声援を送っていたのでありました(笑)。

 次に登場したのは KOJI さん。今回と同じく城野さん&田中さんコンビのオーガナイズによる昨年5月の『ぼくらのタイニィショウ』以降、順調にライヴ活動を重ねています。代表曲「Beautiful World」は、今回のライヴのオーディエンスのみなさんには既に浸透していた様子。いよいよオリジナルCDリリースへの期待が高まっています。

 次は alis(アリス)さん。KOJI さんと同じく、昨年11月の GLAP に続いてのライヴです。躍動感にあふれたパフォーマンスで、会場のテンションを一気に引き上げてくれました。頽廃の底にある孤独や悲哀を、硬質なサウンドに乗せて歌い上げる alis さんのパフォーマンスには、「ゲイだからこそ感じ得る心のひだ」が、スタイリッシュに刻み込まれています。ブラボー!

 続いては岡本忍さん。このライヴのオーガナイザーでもある田中守さんのもう1つの顔です。今回披露した2曲のうち、とにかく強烈だったのが「妄想ジャックオフ少年」。「シュッシュッシュッ」というあのパフォーマンスはマジで必見。「なに、それ?」と思われたかたは、とにかく一度、岡本忍さんのライヴに足を運んでみてください。耳にこびりついて離れなくなること間違いナシです。後々まで語り草になるであろう、そしてこれからのライヴでも定番曲となること確実のパフォーマンスでした。

 次は旧・NEUTRAL、現・城野祐樹×HISAO のお二人。今回のセットリストの最初の3曲、「君を乗せて」「CALL MY NAME」「I lost...」は、実は日本のゲイ・インディーズ・シーンの最初の大きなマイルストーンである2000年8月5日の『第1回ゲイ&レズビアン・ミュージック・フェスティバル』で NEUTRAL が初めてライヴ・パフォーマンスを行なった際のセットリストと、全く同じ。今回のライヴに足を運ばれたかたのうち、当時をご存知のかたがどのくらいいらっしゃったのかはわかりませんが、今回の城野さんたちのパフォーマンスは、ゲイ・インディーズ・シーン黎明期の、新しい何かが動き出しているという高揚感を、私の中に再び呼び起こさせるものでした。

 そして4曲目に披露されたのは、昨年5月の『ぼくらのタイニィショウ』のために書き下ろされた、まさに現在進行形の人気ナンバー「また会いたいな」。まるで2000年の夏から2009年の春へと、時間が一気に引き戻されたような感覚を覚えるパフォーマンスでした。

 お二人が今回のステージ上で見せたものとは、つまり、ゲイ・インディーズ・シーンの初めてのマイルストーンであった2000年8月5日と、2009年現在のシーンの最前線を1つに結んだ、日本のゲイ・インディーズの10年という時間だった、と思います。

 これまでに出演したライヴの本数は決して多くないとはいえ、1998年のユニット結成以来、今もなお日本のゲイ・インディーズ・シーンの屋台骨を支え続けている城野さんと HISAO さんのお二人だったからこそ可能な、非常に意義深いパフォーマンスであったと私は考えています。

 次は MASATO/F(マサトフ)さん。札幌が拠点のデュオ・ユニット ROD として活動する傍ら、ソロ・シンガーとしてもシングル「LOST HEAVEN」をリリースしています。ソロとしては今回が初めての東京ライヴ。どことなく心細げな風情ではありましたが(笑)、そこはやはりゲイ・インディーズのヴェテラン格の一人。堂々たるパフォーマンスで魅了してくれました。

 そしてここで虹組ファイツが再登場。2曲をパフォーマンスした後、今度は KOJI さんと alis さんのお二人が「Yesterday Once More」をデュエットで披露。今回のライヴに出演が予定されていた何組かのアーティストがスケジュールの都合でキャンセルとなったため、急きょコラボレーション企画が用意されたのですが、その1つが、この「Yesterday Once More」。カーペンターズの名曲です。ここでのアレンジは KOJI さんと alis さんの合作だそうですが、急な企画とはいいながらも実に素晴らしい出来栄えで、私にとっては今回のライヴのハイライトの1つでした。

 続いては Kamui さん。毎回違ったヴァージョンで披露されている看板曲「a reason of being」ですが、今回はしっとりとしたバラード・ヴァージョンでお目見え。ゲイ・アンセム的な華やかさと躍動感に満ちていた前回のクラブ・リミックスに対して、今回のパフォーマンスは、聴く者一人ひとりの存在を肯定し励ましてくれる、力強い熱唱となりました。

 そしてマダム・ピロガネーゼさん。第4回の『ゲイミュージックワールド』でも紹介しているように、マダム・ピロガネーゼさんは単なるドラァグ・クイーンではなく、完全に正統派の女性アイドル。むくつけき野郎タイプの出演者が多く居並ぶ中にあって、ピロガネーゼさんの存在は、ジョークで言うのではなしに、まるで荒野に咲く一輪の花のよう。普通に美人なんです。(つまり、すっぴんのピロガネーゼさんは美形のイケメンさん)

  ピロガネーゼさんの楽曲は、初期のカイリー・ミノーグを彷彿とさせるPWLサウンド風。とってもダンサブルで、オーディエンスのみなさんも一体となって大いに盛り上がりました。

 続いて登場した Yosuke さんは、2001年夏、自作曲「CARNIVAL」が東京レズビアン&ゲイ・パレード2001の公式テーマ・ソングに選ばれてシーンに登場。当時の最年少アーティストであり、ゲイ・メディアからも大きな注目を集めました。

 その年のパレード前日祭 GLORY では、代々木公園の野外ステージを所狭しと跳ね回り、全身を使った躍動的なパフォーマンスを披露していた Yosuke さんですが、それから8年経った今回のライヴでは、以前とは全く対照的に、ピアノを演奏しながらのパフォーマンス。といってもアコースティックの弾き語りではなく、サウンドそのものはお馴染みの Yosuke 節。動的なエレクトロニック・サウンドと静的なヴィジュアルが共存している点でペット・ショップ・ボーイズを彷彿とさせる、以前の Yosuke さんとは一味も二味も違う、大人の雰囲気漂うパフォーマンスでした。

 この『ゲイミュージックワールド』では既にお馴染みの大吾さんもこのライヴに登場。代表曲「Take the deep breath」他、3曲を披露してくれました。私は以前、『ゲイミュージックワールド』の第3回で、「良い意味でいつまでも初々しさが損なわれていないところが大吾さんのパフォーマンスの魅力」と書きましたが、今回の大吾さんは、ソロ・アーティストとしてのこれまでの実績を背景とした、風格のようなものを感じさせたのが印象的でした。

 そして、今回は岡本忍としても出演している田中守さんがいよいよ登場。田中さんの楽曲はゲイのセックスを直截に扱ったものも多いのですが、今回は岡本忍との差別化を図るためなのか、田中守として歌ったのは、ファンのあいだでも人気の高い傷心ソング「最終回」と、セックスやキス以前の初々しい恋を描いた「17cm」の2曲。アイドル歌謡の可憐さが前面に出た選曲でした。

 トリで登場したのは M'KEYS(エム・キース)さん。札幌を拠点とするアーティストさんで、ピアノの弾き語りでもダンサブルなスタイルでも本領を発揮する、マルチな才能の持ち主です。

 今回は代表曲である「OPEN THE SKY」「ボクノシルシ」「Dawn」の3曲を、ほぼフル・コーラスのまま、ノン・ストップ・メドレーに仕立ててのダンサブルなパフォーマンス。そのうえ、サポート・ミュージシャンもバック・ダンサーもいっさい立てない、完全なワンマン・スタイル。ということは、途中で水分を補給することもできず、オーディエンスの視線に常に晒されたままの、逃げ場のないステージであるともいえます。リハーサルから観ていた私は、「はたして彼は最後まで保つかな? 大丈夫かな?」と実は心配していたのですが、それは全くの杞憂でした。

 いざ本番が始まると、M'KEYS さんは最初から最後までエンジン全開。オーディエンスの視線を全く逸らさない、1つひとつが絵になるステージ・アクションと、不安定さのない確かな歌唱力、そしてたった一人でのパフォーマンスでありながら舞台空間の余白を感じさせない圧倒的な存在感を示し、まさにトリにふさわしい、大盛り上がりのステージとなりました。

 そして、エンディングは、M'KEYS さんの VS PROJECT による「DISTANCE」。VS PROJECT は、M'KEYS さんと親交のあるアーティストさんたちとのコラボレーションによるシングル盤のリリース企画で、2005年の1年間で計8タイトルが発表されました。田中守さんが今回のライヴで歌った「17cm」も、VS PROJECT 作品です。「DISTANCE」は VS PROJECT の第1弾で、オリジナルのヴォーカルは石川綺羅さん。この「DISTANCE」を、VS PROJECT に参加していた城野祐樹さん、MASATO/F さん、田中守さん、そして M'KEYS さんの4人で共演。かくして『INSIDE OUT the LIVE 2009 SPRING』は大団円を迎えました。

 城野祐樹さんのインターネットラジオ『城野祐樹の元気でいますか?』の最新回(第160回)によると、既に田中守さんとのあいだで、次回の開催について話が交わされているそうです。来年(ですよね?)も大いに期待しています!