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「ゲイミュージックワールド」第9回 屋良朝友

ゲイミュージックを愛してやまない藤嶋貴樹さんによる本格連載「ゲイミュージックワールド」です。

屋良朝友さんは最も古くからゲイシーンでライヴ活動を行ってきた方です。9月15日の屋良朝友ワンマン・ライヴ@「Omori Folk Town 風に吹かれて」の模様を藤嶋貴樹さんが熱くレポートしてくれました。

Photo : Takaki Fujishima

屋良朝友ワンマン・ライヴ観覧記


去る9月15日に、東京・大森のライヴ・ハウス「Omori Folk Town 風に吹かれて」にて、屋良朝友さんのワンマン・ライヴが開催されました。

屋良さんは、日本のインディーLGBTミュージック・シーンが誇る、ヴェテラン中のヴェテラン・アーティストです。なにしろ、屋良さんの公式サイトに掲載されているプロフィールによれば、屋良さんがライヴ・ハウスでの演奏活動を開始されたのは、なんと80年代の前半! GAY LIFE JAPAN の読者のみなさんの中には、当時はまだ受精卵ですらなかったというかたさえいらっしゃることでしょう。ちなみに、当時の屋良さんは「小三郎」というステージ・ネームで活動されていました。

その小三郎さんがゲイ・コミュニティでも演奏活動を行なうようになったのが1987年ごろ。今は無きゲイ雑誌『アドン』の誌上にて小三郎さんのオリジナルテープの発売が行なわれたこともありました。おそらく、日本のゲイ・メディアに初めて登場したゲイ・インディー・ミュージシャンは、屋良さんのはずです。この当時の記事を、私はリアルタイムで読んだ記憶があります。残念ながら現物は手元に残っていないので、その正確な内容をここでお伝えすることはできないのですが、ゲイであることに悩んでいた当時の私(高校生でした)にとって、ゲイという性的指向に立脚して音楽活動を行なっているインディー・ミュージシャンが、遠い海外ではなくこの日本のゲイ・コミュニティにもいるのだという事実は、当時の私にはかなりのインパクトがありました。そのインパクトこそが、現在でもこうしてゲイのミュージシャンについて記事を書き続けている私の原点になっているのかもしれないと、今にしてみると思います。

やがて小三郎さんは、1998年3月に現在の「屋良朝友」にステージ・ネームを変更。時をほぼ同じくして、屋良さん以外にもゲイ・コミュニティを活動の場とするインディーのアーティストさんたちが、続々と登場してきました。こうして、通称「ゲイ・インディーズ」とのちに呼ばれるようになる、ゲイ・コミュニティ独自の音楽シーンが形成されていきました。特に、東京のレズビアン&ゲイ・パレードが復活開催された2000年から2001年にかけては、LGBTのインディー・アーティストさんが大挙して出演するライヴ・イヴェントが数多く開催され、それらのほとんどで大トリを飾っていたのが、当時で既に20年にも及ばんとする活動歴のあった屋良さんだったのです。

この時期に活躍していたアーティストさんやユニットの多くは、現在では活動を休止していたり、あるいは解散したりしています。アーティスト活動を長期に渡って続けていくのは、たとえメジャーであろうとインディペンデントであろうと、そうした流通形態の違いには関わりなく、精神的にも身体的にも大変な労苦を伴うものです。しかし屋良さんは、2009年の今日に至ってもなお、ゲイ・インディーズ・シーンの第一線で活躍を続けておられる、日本のゲイ・カルチャーの至宝とも呼ぶべき、非常に稀有なアーティストさんなのです。

さて、9月15日のワンマン・ライヴの模様なんですが、会場となった「Omori Folk Town 風に吹かれて」は、ゲイをメイン・ターゲットとしたライヴ・ハウスではありません。つまり、屋良さんがゲイ・シンガーであることをご存じないお客さんも、当然いらっしゃるわけです。しかし屋良さんは、ゲイ・コミュニティの外でも、ご自身がゲイ・シンガーであることをオープンにして活動をしておられるかたです。特に今回のライヴでは、オーディエンスの多くをゲイのみなさんが占めていたという状況もあり、選曲の面からもMCの面からも、ゲイという性的指向にオブラートがかけられることはありませんでした。加えて、この日は2部構成の完全なワンマン・ライヴでもあり、だからこそ通常のゲイ・ライヴ・イヴェント以上に、「ゲイ・シンガー、屋良朝友」の濃密な世界が、存分に堪能できる内容となっていました。

オープニング曲は、もちろん「しつこいおかま」。屋良さんの最初のCD作品である2000年のアルバム『Gay Street Lullaby』のオープニング曲であり、かつ屋良さんの代表曲でもあります。そのタイトルからコミカルな印象を受けるかたもいらっしゃるかもしれませんが、ゲイならではの叙情性に溢れた、ゲイ・インディーズの名曲中の名曲です。昔の恋人への断ち切りがたい想いを、全篇あえて女言葉で歌い上げ、最後に「しつこいおかまってサイテーよね」と自嘲の言葉で締めくくるこの曲は、「おかま」という言葉が侮蔑的なニュアンスをもっているというコンセンサスを逆手にとった構造を持っており、それが主人公の切ない心情を、実に効果的に、よりいっそう物悲しく煽っているんですね。曲作りの神様が屋良さんに降りてきたに違いないほど完成度の高い、珠玉のラヴ・ソングです。

この「しつこいおかま」に続いたMCの中で、屋良さんはご自分を「ゲイ・シンガー」と紹介されました。そうした屋良さんの姿勢の、真に素晴らしい点というのは、むしろゲイという性的指向を過剰に意識している気配がほとんど窺われないところにある、と私は思います。ゲイのアーティストのかたが音楽活動を行なうとき、その性的指向にオブラートをかけるにせよ、反対にそれを前面に出すにせよ、それがゲイという性的指向を過剰に意識しているがゆえのものであるという点で、両者に大きな違いは、実はありません。しかし屋良さんは、いつでも自然体です。メッセージ性の強い曲や社会性に富んだ曲も屋良さんは多く歌われていますが、屋良さん自身に大きく気負ったところはないんですね。おそらく、過剰な気負いがないからこそ、屋良さんは長年に渡って、「ゲイ・シンガー」であることを明言して歌い続けることに疲弊されたり、磨耗されたりすることがなかったのだと思います。1曲歌い終わるごとに、大好きなビールや焼酎をグビッと一口呑んで、ほろ酔い加減で気持ち良さそうに演奏を進めていく屋良さん。肩の力を抜いたゆる〜い雰囲気のその裏側にこそ、私は屋良さんの精神の気高さが見えるような気がしました。

今回のワンマン・ライヴの第1部と第2部とでは、微妙に選曲の傾向が異なっていたのも、たいへん興味深い点でした。しかもそれは、周到な計算に基づいたものというよりも、屋良さんのパフォーマーとしての直感とか本能によるものという雰囲気があり、これもまた屋良さんの自然体ぶりを示すものであったように思います。

第1部では、秋の風景が歌われている楽曲や、あるいはいま話題の芸能界の薬物汚染を報じるマスコミの姿勢についてMCで触れた上で、マス・メディアによる大衆の意識扇動を風刺した楽曲「情報時代」を歌われるなど、時節を鋭敏に意識した、現在という時間を巧みに切り抜く楽曲が多く並び、1つのショーとして、非常に整った構成となっていました。このように時節に即した柔軟な選曲が行なえるのも、長年のキャリアに裏打ちされた豊富な楽曲のストックがあるからであり、そんな屋良さんであったからこそ初めて可能なセットリストであったと言えます。対して第2部は、冒頭で屋良さんがこよなく敬愛されている中島みゆきさんの「とろ」「暦売りの歌」の2曲をカヴァーされていたことにも象徴的なように、全体の構成を優先したというよりは、屋良さん自身が自発的に歌いたいと欲した曲を歌っていくといったような、インスピレーション優先の雰囲気が漂う、自由なステージとなっていました。その雰囲気が最も強く感じられたのが「僕たちのクリスマス・ソング2003」。季節感を意識していた第1部とは正反対に、ここではクリスマスというモチーフにはあえて目をつぶり、反戦の訴えという歌詞の内容を、屋良さんは最優先させていたわけです。

時節に即した内容と構成をもった第1部にしても、自由な雰囲気の第2部にしても、楽曲の豊富なストックがそのように存分に活かされていたのは、屋良さんというアーティストが、固有の世界観とスタイルをその中心にしっかりと抱きながらも、決してそれに縛られたり固執したりすることなく、状況に応じて実に柔軟な対応と変化を見せることのできるアーティストさんであるからだと思います。実際、屋良さんのパフォーマンス・スタイルというのは、今回はギター1本の弾き語りのスタイルでしたが、フル・バンドを従えてのパフォーマンスを披露されることもあれば、MC抜きのシアトリカルなパフォーマンスをされることもあったり、時にはオケを用いた打ち込みのスタイルさえ披露されることもあります。その意味では、今回のワンマン・ライヴは「ゲイ・シンガー、屋良朝友」の世界を存分に堪能できる濃密なものでありつつも、一方では柔軟に表現スタイルを変化させる屋良さんというアーティストの、ほんのごく一面が観られたに過ぎないのだ、と言うことさえ可能であるのです。こうして考えていくと、屋良さんのアーティストとしての奥行きの深さに今また改めて畏敬の念が強く湧き起こる、そんな今回のワンマン・ライヴであったと思います。

大阪を拠点としている屋良さんの東京ライヴは、ゲイミュージックワールドの第4回でライヴ・レポを掲載した、昨年11月の「GLAP」以来です。日本のゲイ・インディーズの最盛期であった2000年から2002年のころに比べると、屋良さんが東京でライヴを行なう機会は、かなり減ってしまっていたのですが、今後は東京でのライヴをもっと増やしていきたい意向が、屋良さんにはあるそうです。関東の外にまで足を運ぶ機会がなかなか作れない私としては、これは嬉しい限り。屋良さんの次回の東京ライヴを、楽しみに待っています!