エンポリオ・アルマーニのメンズ・アンダーウェア広告のモデルに、デビッド・ベッカムの後任としてクリスティアーノ・ロナウドが選ばれたというニュースをお伝えしました。新たなセックス・シンボルが誕生したのです。サッカー界のトップ・スター選手を裸にすることができるのは「モード界の帝王」ジョルジオ・アルマーニだからこそでしょう。
80年代にカルバン・クラインとブルース・ウェーバーが大胆なメールヌード広告戦略によって成功を収めた時から、男性の下着はファッションとして認知されるようになりました。彼らはファッション界に革命を起こしたのです。今や、当たり前のように男性モデルのセクシーな広告がデザインされるようになり、街を歩く男性たちは競って下着をチラ見せするようになりました。
同時にそれは、社会を(人々の美意識とジェンダー観を)も変えることにつながりました。ストレート男性の欲望が支配的だった時代には、男性の裸が崇拝の対象として公の場に露出することは忌避されてきました。が、美しい肉体を持つ男性モデルのヌード写真が女性たち(とゲイ)の熱い支持によって社会に認知されるとともに、女性やゲイの社会的地位もまた向上していったのです。
ゲイにとって、もちろんこうした変化は喜ばしいことです。まさに今、僕らの周りで『an・an』の「オトコノカラダ」という特集が話題になっていますが、世間のこうした潮流は大いに歓迎すべきでしょう。(日本もまた、アメリカと同様の方向へと動いていくと思われます。グローバル化の波はあらゆる面で僕らの生活に浸透しつつあります)
ここで、多大な勇気と資本の投資によってメールヌード広告を世界に発信してきた人たちへのリスペクトを込めて、その歴史を振り返ってみたいと思います。
男性のヌードとアンダーウェアが美の対象に
カルバン・クラインとブルース・ウェーバーによる革命
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今から30年前まで、アンダーウェアはただの「下着」や「パンツ」であり、決して他人に見せるものではありませんでした。ファッション・アイテムという捉えられ方はされていなかったのです。それをファッションに昇華したのがカルバン・クラインです。
1982年、美しく鍛えられた肉体を持つアスリートをモデルに起用し、ギリシアで撮影されたアンダーウェア広告が、マンハッタン中の広告スペースを埋め尽くしました。このカルバン・クライン・アンダーウェアの広告写真を撮影したのが、ブルース・ウェーバーでした。そして、当時アメリカのアイドル的存在だったマーク・ウォルバーグ(マーキー・マーク、写真右下)などもモデルとして登場するようになりました。
この成功により、ウェーバーは一躍80年代を代表する商業写真家となりました。そして、カルバン・クラインとブルース・ウェーバーが生み出したアンダーウェア広告は、ファッション界に革命をもたらしただけでなく、男性の肉体が美的な鑑賞の対象となることを世界に知らしめ、美の基準やジェンダー観をも変革したのです。(それまでは美といえば女性のものであり、男性のヌードは不快なものでしかありませんでした。社会はストレート男性の欲望を具現化するようにできあがっていたのです)
メールヌード自体はそれ以前からずっと撮られていましたし、ゲイの間で「密かな愉しみ」として愛されていました。が、それがアメリカ社会に受け入れるためには、70年代を通じての性解放、女性解放、ゲイの解放運動が社会に浸透するのを待たなければなりませんでした。80年代になってやっと、ロバート・メイプルソープが認められるようになったのです。
評論家のマーティン・ハリソンは「ウェーバーはファッション写真をブルース・ウェーバー写真にした」 と評価しています。ファッション写真をまとめた2005年刊の写真集で、ウェーバーは「これらは単に洋服のかたちを記録した写真ではなく、私たちがファッションを、その本質、構成、人間の精神面からどのようにとらえているかを表しています。現在の世の中は不条理なことで満ちています。ファッションを撮影することの素晴らしい点は、世の中の問題を解決はしないものの、純真さを無くした世の中に少なくとも想像力の芽生えを与えることができるのではないかということです」と語っています。彼のこのような姿勢から優れたファッション写真は時代性を持ったオリジナル作品と次第に認められるようになるのです。
どこにでもいる男の子の自然な魅力が絶大な人気を博した
アバクロとブルース・ウェーバーによる席巻
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ブルース・ウェーバーはその後、ラルフ・ローレンやアバクロンビー&フィッチ(以下アバクロ)の広告写真も手がけます。1997年から出版された『A&F Quarterly』という季刊誌は、アバクロの商品カタログであり雑誌でもある「マガログ」スタイルでしたが、ブルースの手になる男性モデルのセミヌード写真が贅沢にちりばめられ、20万部という雑誌顔負けの発行部数を誇りました。その写真では、背が高く、小麦色に焼け、真っ白な歯と、鍛えられた体を持った素人の(どこにでもいるような)男の子たちが、ファッションモデルのようにポーズを取ることもなく、突っ立っているか、フットボールをしているだけです。が、その自然さとセクシーさこそが、アバクロを「カッコいい」と思わせ、ティーンに(そしてゲイに)絶大な人気を誇る最大の魅力になったのです。
カルバン・クラインの広告写真はいわゆる「美」にこだわるものでした。ギリシアの風景の中でポーズを取る完璧な肉体の男性は、西洋の美意識の原点であるギリシア彫刻のイメージを喚起するもの。文句のつけようがありませんでした。ところが、アバクロの広告写真は経営者の「SEX SELLS(セクシーなものは売れる)」という方針に基づくものであり、広告としては大成功を収めましたが、「アート」ではなく「ポルノ」であるという見方もされました。
男性のセミヌード写真がふんだんに使用された『A&F Quarterly』は、一部の人たちから「ソフトポルノ」だとの批判も受けました(ちなみに『A&F Quarterly』は18禁=IDの提示がないと購入できないものでした)。2001年には、服をまとわない男女の群れをフィーチャーした『XXX』というタイトルのマガログを発行しましたが、あまりにも批判が強く、アバクロはその回収を決めました。2003年のホリデーカタログ(クリスマスシーズン号)では、オーラルセックスに関する記事を掲載し、表紙に「グループセックス」の文字が載り、かなり露出度の高い写真が載っていたことで非難を浴び、再び回収されることになりました。
結局、『A&F Quarterly』は休刊となり、2004年からは、無料で18歳以下にも販売可能な、おとなしいカタログ『young』へと刷新しました。しかしそれでもまだ、「高い露出度と刺激的なポーズは、あまりに挑発的すぎる」と言われるほどでした。
今は伝説となってしまいましたが、『A&F Quarterly』(マガログ)は今でもヤフオクなどで高値で取引されています(ブルース・ウェーバーの写真はとにかく「高い」のです)
ついに世界的なセレブがヌードモデルに
アルマーニがデビッド・ベッカムを起用
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21世紀になり、メールヌード広告はさらに強力な進化を遂げます(いわば、最後の切り札です)。世界的に有名なアスリートがモデルとして起用されるようになったのです。
まず、2003年、スウェーデンのサッカー選手、フレデリク・ユングベリ(写真右)がカルバン・クラインのアンダーウェア広告に登場します。カルバン・クラインは90年代にブランドとしては低迷していましたが、この広告戦略で飛躍的に売り上げを伸ばし、成功を収めます。
そして、世界で最も巨額の利益を上げてきたブランドの帝王であるジョルジオ・アルマーニが、ついに世界的なセレブを口説き落とすことに成功したのです。
2007年、トップ・サッカー選手であり、元スパイスガールズのビクトリアを妻とし、世界中の人たちの憧れの的であるセレブ中のセレブ、デビッド・ベッカム(32)が、エンポリオ・アルマーニ・アンダーウェアの広告モデルをつとめることになり、大ニュースとなりました。ベッカムがアパレルブランドと契約を結ぶのは初めてで、契約額は3年間で2000万ポンド(約46億円)という破格の数字でした。
有名ファッション・フォトグラファー、マート・アラス&マーカス・ピジョットの撮影による広告写真は、米ファッション誌『ヴァニティ・フェア』に掲載される前に、インターネットを通じて世界中を飛び回りました。
ジョルジオ・アルマーニがベッカムに白羽の矢を立てたのは、2002年にアルマーニがサッカーのイングランド代表チームのユニフォームをデザインして以来の友人だったから、ということもありますが、「ベッカムは現代の男らしさの象徴。スポーツ界のヒーローであり、夫であり、父である。さらに優れたファッションセンスの持ち主で、かつてはサッカー選手はオシャレのお手本にはならないと思われていたこともあったが、ベッカムはその概念を変えた」と語ったように、ベッカムに惚れ込んでいたからだそうです。
しかし、ベッカムはアルマーニと友人でなおかつ破格の契約金を手にするためだけに脱いだわけではありませんでした。2002年、イングランド・サッカー界がゲイに対して好意的ではなかったにも関わらず、ベッカムはイギリスのゲイ雑誌『Attitude』の表紙を飾り(写真右)、インタビューに答え、なおかつセクシーなグラビア写真も披露し、ありえないくらいゲイフレンドリーなセレブとしてゲイコミュニティに絶賛されました。2007年には「ゲイ・イコン(ゲイのアイドル)と言われて光栄だよ」とBBCのインタビューに答えています。(ちなみに奥さんのビクトリア・ベッカムも素晴らしくゲイフレンドリーです)
そして先日、3年の契約が切れることに伴い、ジョルジオ・アルマーニが後任として選んだのは、同じサッカー界のトップ・スター、クリスティアーノ・ロナウドでした。
ロナウドは2008年、イギリスのゲイサイトによる投票で(カイリー・ミノーグを押さえて)トップ・ゲイ・イコンに選ばれるほど、ゲイの絶大な支持を得ている人です。
アルマーニがロナウドを選んだ理由の中には、きっと、今最もゲイに人気のある男性だからという意味合いも含まれているのではないかと思います。
クリスティアーノ・ロナウドがどこまでゲイフレンドリーなのか、アルマーニの広告神話がどこまで続いていくかはわかりませんが、ともかく今は、この新たなセックス・シンボル(ゲイ・イコン)の誕生を祝したいと思います。