先般のカリフォルニア州同性婚禁止の住民投票の結果に対し、世界中で「黒人を大統領に迎えた住民がなぜ? これは新たな人種差別ではないのか」との声が上がりました。サンフランシスコやロサンゼルスというゲイのメッカを抱えるカリフォルニア州ですら、同性愛者を二級市民扱いしてまでも男女と同様の結婚を認めたくないという住民が過半数を超えたことがショックだったのです。そこには「同性愛は罪である」とするキリスト教の価値観が大きく影響していると言われています。
アメリカだけでなく、イタリアをはじめとする欧州の多くの国でも同性婚が認められていませんが、そこにはカトリック教会の同性愛禁止の教義が大きく影響していると言われています。
本来のキリスト教の教えというのはそういうものなのでしょうか?
決してそうではないと信じます。僕は2006年にNLGRというイベントでトランスジェンダーの牧師に同性結婚式を挙げていただき、一生の思い出に残るような感動を経験しました。周りにもゲイのクリスチャンの友達がたくさんいます(みんな素晴らしい人たちです)。僕自身はキリスト教信者ではありませんが、日本ではただでさえマイナーなキリスト教のイメージがこれ以上悪くなるのもしのびないという気持ちもあり、自分の中でももやもやとした葛藤がありました。
そこで、「キリスト教の教え自体が同性愛差別の根源なのではない」という説得力のあるお話を聞きたいと思い、新宿二丁目の近くに「新宿コミュニティー教会」を構える中村吉基牧師にお話を聞くことにしました。(後藤純一)

新宿コミュニティー教会の中村吉基牧師。穏やかで優しくて、お話していると心が洗われるような気がします
――そもそもこの教会をこの場所(新宿御苑前)に開設した経緯を教えてください。
もともと私は会社員をしておりまして、この近辺に住んでいたのですが、なぜか新宿の中心部に教会がないことに気づいたんです。都庁から四谷三丁目まで、1つもなかったのです。
――空白地帯だったんですね。
外国からすると不思議なことで、都庁みたいな建物の隣には大きな教会があるのが普通です。それと、この街に生きるLGBTやホームレス、家出少年、滞日外国人などのミニストリー(教会が行う人々のケア)を行う場所、コミュニティーセンターみたいな教会がこの街に1つあってもいいんじゃないかと思っていたんです。2004年3月に神学校を卒業し、牧師となって、その年の4月にこの教会を開設いたしました。
――なるほど。二丁目に近いということもあり、ゲイの方も来やすいわけですね?
そうですね。ただ、ここに来ている人がみんなLGBTかというと、決してそうではないんです。ヘテロセクシュアルの人も来ています。日本のキリスト教人口って1%しかいなくて、さらにその中でLGBTというとすごく少ない。二丁目には住民がいないと言われたりしますが、この辺りに暮らしている方もたくさんいて、いろんな人が気軽に来れる教会になったらと思っています。大久保界隈には在日外国人の方が安心して来れる教会があって、盛んです。なかなかすべて手を広げられないのですが、ヘテロの人とLGBTの人がいっしょにキリストの食卓を囲むことができればと思います。ここはよくLGBT専用の教会だと誤解されますが、ここに通ってくることを逆に言えなくなったりするのは非常に残念。「新宿コミュニティー教会のメンバーです」って胸を張って言えるようになってほしいですね。
――実際にいろんな方が来られると思うんですが、たとえば、ゲイやレズビアンの方がこちらに来られて、すごく気持ちが楽になったり、悩みが解消されたりということもあるのかな?と思います。
親がクリスチャンで子どもの頃から教会に行っていて、初めはどこそこの家の子だとちやほやされていたけど、カミングアウトしたばっかりに、「それは間違っています」「罪です」と言われたり、礼拝のお祈りのときにみんな立っている中で、「あなただけ座ってください」と言われたとか、最後の晩餐を再現する儀式(聖餐)に参加しなくていいとあからさまに言われたり、ゲイの人と同じ器を使いたくありませんと言われたりしてきた、という話を聞きました。
――あからさまな差別ですよね。驚きました。予想以上に冷たい扱いを受けるんだな…と。そういう意味では、当事者の信者の方たちにとっては本当にこの教会の存在理由は大きいんだろうと思います。
マザーテレサの言葉で言うと、このような小さな教会は「大海の一滴にすぎない」かもしれません。でも、ここからがんばっていかないと、キリスト教のあり方を変えていかないと、と思っています。
――先日のカリフォルニア州での住民投票で過半数の人が同性婚禁止に賛成したり、ローマ教皇も頑なに否定していますね。今でもキリスト教の教えとして、同性愛はいけないという共通の考えがあるような気がするんですが、どうなんでしょうか?
伝統的なキリスト教は性の問題を避けて通ってきたように思います。聖書を根拠にして言う人がいるのは確かですが、聖書には同性愛って言葉は出てこないんです。「男と寝てはならない」という、同性愛を禁止するように曲解されるようなくだりはあります。しかし肝心のイエス・キリストは、何も言及していないのです。
――そうなんですか?
確かに「男と寝てはならない」と書いてあるところはありますが、その周りを読むと、「ひれやうろこのないものは、海のものでも、川のものでも、水に群がるものでも、水の中の生き物はすべて汚らわしいものである」と書かれてもいます。私たちはイカやタコを食べますよね。クリスチャンのほとんどはそんな教えは守れない。また旧約聖書には「二種の家畜を交配させたり、一つの畑に二種の種を蒔いてはならない。また二種の糸で織った衣服を身に着けてはならない」と記されています。
現代社会で、数千年前の旧約聖書の律法を適用して生活することなどできないということは、多くの人がわかっています。原理主義の人たちは一字一句守ろうとするけど、うまくいかないわけです。いろんなものが発達して、そういうことを信じている人たちが時代に取り残されていく。40年前、カトリック教会は現代化への改革をしました。しかし、同性愛のことや堕胎のことはそのままになっていた。その影で声にならない声で叫んでいた人、涙を流していた人は数知れないのです。そういうひとを包み込む宗教でなければならないはずです。
――なるほど。古い戒律の中の何が改められて何がそのままなのかというのは人為的というか、時代や社会状況に左右されるわけですね。
そうですね。オバマ氏が当選したことに比べると、カリフォルニアの件住民投票は、あまり報道されてないですよね?
――テレビではそうですね。でもインターネットのニュースではかなり流れていましたし、「禁止されて当然」ではなく、「同性婚がどうしてだめなのか」という声を素直に報じている、どちらかというと支援的なスタンスのニュースがほとんどでした。
カリフォルニアには、私たちの教団から日本人の牧師が何人も派遣されているんです。日系人が多くいたところで日本人教会が多いからです。私の友人は今回のことをメールで教えてくれて、今、彼が遣わされているのが、ユナイテッド・チャーチ・オブ・クライスト(UCC=アメリカ合同教会)というところで、オバマ氏が所属していたところです。歴史が古くて、イギリスから渡ってきたピルグリムファーザーズ(清教徒)に端を発していますが、意外に信徒は多くなくて、全米で20番目くらい。非常に進歩的なんです。新しいことをどんどん受け入れていった。LGBTを認めている数少ない主流教会です。しかもLGBTが牧師になれる。ほかにも、同性愛者によって「メトロポリタン・コミュニティー教会」も設立されています。
――キリスト教とひとくちに言っても一枚岩ではなく、たくさんの教派があって、それぞれ同性愛に対するスタンスが違うんですね?
その中でも原理主義の人たちに手厚くブッシュ政権は守られていたので、ブッシュ大統領は彼らの顔色を伺いながら政治をやっていたわけです。同性婚も絶対反対でした。南部や中西部のバイブルベルトと言われるところならいざしらず、カリフォルニアはLGBTのメッカなので、サンフランシスコの市長や議員もLGBTを無視して当選できないし、政治活動を維持できない。シュワルツネッガー州知事もそう。オバマ氏も当選のときの演説が示すように、同性愛者に一目置いて活動してきました。でも今回、保守的といわれる人もオバマ氏に投票した人が多かった。ブームもあっただろうし。
――「24」の影響も大きかったと言われていますね。
若い人たちにも支持されて当選しました。しかし、その人たちが、大統領選挙には「オバマ」と書いたのに同性婚は「反対」と書いたのです。というのは、カリフォルニアにあるメガチャーチ(何万もの信者を集めている教会)が、今若者に支持されているんです。UCCのように自分の考えで行動しなさいというタイプの教会が人気がなくて、カリスマ的な牧師を崇拝するようなタイプが受けている。
――ミュージシャンのコンサートみたいな?
そうなんです。そういう有力な教会を中心に、いろんな保守的なコミュニティーがインターネットで大規模に、同性婚禁止キャンペーンをやったんです。オバマ氏も、シュワルツネッガー知事も同性婚に賛成と表明していたにも関わらずです。
――モルモン教会がかなり入ってきて活動していたと言われていますね。
モルモン教の中心であるユタ州は隣ですしね。それはあるでしょうね。
――いろんなグループがモザイクのように寄せ集まっているのがアメリカなんですね。今回の結果はとても残念ですが、世界的な流れとして同性婚が認められる方向に進んでいくと信じています。
―― 一方、日本はどうなんだろうと考えたときに、さっきのお話だとなかなか厳しい印象を受けました。新宿コミュニティー教会がある意味「砦」としてがんばっていると思うのですが、周りの教会からバッシングなどはないですか?
直接にはないですね。陰でコソコソ言われているとは思いますが…(笑)。でも意外なことに、同性愛に反対している人ではなく、当事者の方から脅迫電話や手紙をもらったことはあります。
――同性愛を禁じられて育った当事者のクリスチャンの方が内に秘めるホモフォビアみたいなものをぶつけてくるような? せつないお話ですね…
私だって、ふと気がついたらこれはホモフォビアじゃないかと、そういうことはあります。それは自分の弱さだと思いながら。
――日本は江戸時代まで同性愛に寛容でしたし、宗教色がない社会というか、宗教的な理由で同性愛者を差別するということはあまりなくて、実はアメリカとかよりもゲイが生きやすい土壌を持っているのではないかと思います。タイなんかもすごく寛容ですよね。
そうですね。私もタイを思い浮かべました。フィリピンのような90%以上がカトリックの国でもLGBTの人がちゃんと社会の中でポジションを得て生きていますよね。
――宗教単体で見るのではなく、そことリンクしている社会のありようが寛容度を左右しているということなんですよね。中村さんのブログでNHKの「ハートをつなごう」について書いている記事がありましたね。世間は少しずつゲイフレンドリーになってきていると。
ブログを読んでくださっているクリスチャンや牧師仲間に向けて「この番組ちょっと見てよ」っていう意味でも書いたんです。
――世の中はもうこうなってるんだよ、と。
ときどきああいうエッセイを書くんですが、なかなかみなさんのコメントに応える時間がなくて…。ホームページだけでなく、教会のパンフレットをコミュニティーセンターなどに置いてもらっています。それを見て来られた方が今までに何人もいらっしゃいます。この教会はいい人に恵まれているんです。「こんな教会ができるのを待っていたんだ」という人に支えられている。「こんな教会があってよかった」っていう言葉がいちばんうれしいです。でも、何も知らずにここに来た方がLGBTに寛容な教会だと知ってから、来なくなるケースもある。ひとりひとりがかけがえのない人なのに、来なくなるというのは本当に残念です。今でもメンバーはまだ数名で、このビルを借りて運営していくことも大変で、他の教会の方の支援でなんとか存続しています。早く自立して運営できるようにと思っています。
――大変なんですね…。でもそうやって周りで応援してくれる方がいるのは心強いですね。
――僕は2年前にイベントでパートナーと同性結婚式を挙げたのですが、そういう願いを持っているゲイやレズビアンのカップルはたくさんいると思います。法律では籍を入れることはできませんが、せめて式だけでも挙げることができて、お友達やご家族に祝福してもらえたら、本当に幸せだと思います。こちらの教会では挙式はお願いできるのですか?
はい、可能な限りお受けしています。ただしこの教会はとてもキャパが狭いので15名ほどの人でいっぱいになります。二人でこじんまりとした式を挙げたいという人向きですね。そのほかには私が式場に出張することもしています。
――ここ以外に式を挙げてくれる教会ってあるんですか?
今のところはあまりないように思います。
――残念です…ゲイだろうとストレートだろうと関係なく式を挙げてくれるようになってくれればと願います。
愛し合っている人たちが一緒になりたいっていうのは権利の問題です。それを否定するのは人権問題ですよね。法律ではまだ遠いかもしれないけど、そういう人たちがいっしょになる手助けをさせていただければと思います。
――本当に素晴らしい。いろんなことと闘いながらの活動になると思いますが、
ぜひ今後も、めげずにがんばっていただきたいと思います。
私たちの教会はすべての人に開かれています。どなたでも遠慮なく、お越しください。
――ありがとうございます!
☆クリスマス礼拝☆
12月24日19:30~
賛美歌を歌ったり、キャンドルサーヴィスも行われるそうです。興味のある方はぜひお出かけください。
http://members.ld.infoseek.co.jp/sccmission/